3・照れた笑顔

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3・照れた笑顔

 毎日、お互いチラリと見て通り過ぎていく。 同じ時間の朝の通学路。帰り道は会わない。  いつもの時間、いつもの通学路。今日も歩いて行く。するといつも会う他校の生徒が向こうから歩いてきて、いつもの様にチラッと見てすれ違う。そしてお互いの学校へ。  カシャン! 何かが落ちた音がしたので俺は振り返った。道に何かが落ちていた。よく見るとスマホ? 「スマホを落としたぞ?」 駆け寄りスマホを拾う。 「おい?」 俺の声に気付かずに奴は歩いて行く。  「きこえないのか?」 走って奴の横に並んで肩を掴み、グイと体を引いた。 「何だよ!?」 相手はびっくりしてイヤホンを外し、俺を見た。 「スマホを落としたぞ?」 音を大きくして音楽を聞いていたようだ。スマホを落としたことに気が付き、一瞬照れたような顔をして俺に礼を言ってきた。  「スマン!音楽を聴いていて聞こえなかった。拾ってくれてサンキューな!」 ニカッと笑い、俺の手からスマホを受け取った。 「今は時間がないけど後で礼をする!じゃ!」 そう言って走って行った。  「……忙しい奴」 俺はスマホを持った手の形のまま立って、走っていく奴を見ていた。 「足が速いな」 何だか印象に残って、見えなくなった後も手のひらを見ていた。  「何だか楽しそう」 学校の休み時間、同じクラスの関根にそう言われた。 「そう?」 見られていたのか……。 「何か面白い事があった?」 関根は珍しく聞いてきた。いつもは深く入ってこないのに。 「別に」 「そうか」 窓から心地良い風が入ってくる。前髪が揺れてくすぐったい。関根はそれ以上聞いてはこなかった。  知らずに顔が笑っていたのだろうか。 朝にスマホを拾い、毎日すれ違うだけの名前も知らない他校の生徒が少し照れながら受け取った時の笑顔が、なぜか思い出していた。
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