アブナイ

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アブナイ

 佐吉が屋敷を目にすると、かがり火が焚かれているようで、暗闇に屋敷が浮かんでいる。  戦の準備をしているようだ。  中に入ると、あやめがすぐに駆け寄ってきた。 「佐吉! 大事ないか。我が助けられなくてすまなかったな」 「なに言ってるんだ。弟子をもう助けぬと言っていたではないか」 「あ、そのようなこと言っていたな」  あやめが笑い、佐吉も笑う。  が、その首に冷たい、刀があてがわれ、佐吉は固まる。 「兄者!?」  あやめはその刀の主、平蔵の行動に戸惑った。 「倉美から無事戻ってくるとは、刺客ではないのか」  平蔵は今にも殺しそうな目で佐吉を見ている。 「ち、違う。十郎に助けてもらった」  佐吉はあえぎながら答えた。 「十郎に?」  と平蔵は怪訝そうな顔をする。 「わ、我が十郎に銭を払った」  あやめは恐々(おそるおそる)挙手をし、それを鋭い目で平蔵がとらえる。 「余計な真似を……。  我われにも佐吉にも得がない。坊っちゃんは大人しく城にいれば、幸せなものを……」 「お、俺はあそこにいるのが幸せだとは思わない。  そ、それに、あなたの得になるように、ここで一緒に戦わせてくれ。その為にまたここに来たんだ」  首にあてがわれ続ける刃に、佐吉の顔から冷や汗が流れる。  その佐吉を平蔵は少し見つめると、フッと笑い、刀を佐吉から離して鞘に収めた。 「そうか。残念だが、戦う必要はないよ。ここは自ら消すんだ」 「自ら?」  佐吉の問いかけに、あやめが静かに頷き、平蔵が続ける。 「ちょっとだけ武士を引き付けるのに戦うふりをするが、攻めよってきたとこで、火薬でドカンだ――」  平蔵は楽しそうに両手を広げた。 「――だからさ、もう皆自由にしてる。今後もついてくる者や去っていく者」  そう平蔵が言い、佐吉はどろんした十郎を思い出す。 「佐吉、君も自由にしていいよ。  悪いことをしたからとか得にならなければとか考えなくていい」  平蔵にそう言われ、佐吉は少し考えると答えを出した。 「では、俺は戦うふりを手伝った後、また旅商人でもやるよ」 「じゃぁ、ついでに諜報員の一人としてお願いしてもいいかな」 「え?」と、佐吉。 「それに妹も連れてってもらいたいんだ」 「え?」と、あやめ。 「外のことを知るのに良い機会だ。  それに、簡単に捕まる佐吉を独りで行かせるのは危なくないかい?」  平蔵はあやめを覗き見み、あやめは「うーん」とうなり、うなずいた。 「そうだな。諜報もやるならば、佐吉は危なっかしいから、私も行ってやろう」  平蔵は喜び、よろしくと言って奥に入っていった。 「あ、ありがとう。よろしく」  佐吉はあやめに笑顔を向ける。が、 「ここでの戦いで変な真似をして足を引っ張らぬようにな」  と、あやめは素っ気なくその場を離れた。 (そんなに俺は頼りないのかな。独りでも行けると思うが……)  佐吉はまだ暗い空を仰いだ。
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