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再会
毒が抜けた佐吉がようやく目を覚ますと、少し暗い蔵のような部屋の中にいた。
人、一人が通り抜けれそうな格子窓が上の方に二つあり、そこから日の光が差し込んでいる。
(格子を外せばいけるかな)
佐吉はひょいと窓まで飛び上がると、格子と格子の隙間に足を乗せ、窓にへばりつく格好になった。
「何をしているのですか」
声のした方をみると、部屋の陰に長い髪の女が立っていて、佐吉は少しゾクッとし、
「な、なにも」
と、すぐに飛び降りた。
「何もしないなら、何も手出し致しません。
しかし、少しでも妙な真似をするなら、容赦するなという命を受けております」
「やはり、小夜か」
しゃべる女を見つめていた佐吉はそう言い、実家に戻ってきたことを悟った。
小夜は黒井家のお抱えくのいちなのだ。
「佐吉様が出ていき、連れ戻せと命を受け、大変でした。ちょこまかとお逃げなさるから」
「ご、ごめんなさい」
静かに怒る小夜の厳しい眼光に、佐吉は小さくなった。
そのとき戸が開き、きつい香の臭いが入ってきた。
「おお、佐吉、母はずっと心配してたぞ」
香りとともに入ってきた佐吉の母は、我が子を抱きしめる。
佐吉はされるがまま任せた。
(どうせ自分の権力の心配だろ)
佐吉は冷めた目で、再会した母を見る。
「殿もお前を待っておる。表居間で執務中じゃ」
母がそう伝えると、小夜が部屋から佐吉を出したので、佐吉は嫌だけど向かうことにした。
表居間に向かう佐吉に小夜がぴたりとついてくる。
表居間に入ると、父が文書を読んでいて、その後ろに右筆と小姓が控えていた。
「佐吉、よくぞ戻った」
面倒臭そうに書面から顔を上げた父からは全く歓迎してる様子がなく、父の低く響く声は佐吉に圧迫感を感じさせた。
「佐吉よ、お前は大事な跡取りだ」
(よく言うよ。弥吉がいるときは見向きもしなかったくせに……)
そう佐吉は言いたいが、言える雰囲気ではない。
「わかってるな。もう逃がしはせぬ。
引佐の忍びがお前をここに忍びこむのに使ったようだが、成敗しとくぞ」
「えっ」
思わず佐吉の声がでる。
「わが息子を利用するなど放っておけぬのでな。
その旨、代田にも伝えたぞ。ことによれば、開戦じゃ」
物騒な言葉を発した父はとても楽しそうに笑い、佐吉は不機嫌になった。
(俺の心配などあの人はしてない。俺は戦の口実に利用されただけだ)
「ここにどうしてもいたくないのならば、亡き者にする。代田の忍びを手引きした罪でな。
今は八兵衛をわが養子に迎えてもよいと考えておる。
お前の立場をよく考えるのだな」
父に『亡き者にする』と言われても佐吉は動じない。
もう下がれと指図され、父に対して冷めきった佐吉は、今やなんの感情も湧かず、静かに小夜と先程の部屋に向かったのだった。
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