柚子の初恋

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翔くんは私の前に立って、来るボール来るボール、全部取ってくれる。 私は、翔くんの背中に隠れて逃げるだけ。 「柚子、こっち。」 なんでだろう? 翔くんがいると、ドッジボールがちょっと楽しく思えた。 翔くんは、とても人懐っこいから、私も気づけば翔くんとは普通に話せるようになっていた。 夕凪先生は、授業でよくペア交流をさせる。 算数でも国語でも、考えを発表する前に、隣の子と意見交換をさせて、考えをまとめてから、全員に挙手をさせる。 だから、私は毎回、翔くんと意見交換をする。 翔くんは、すごく頭がいい。 特に算数は、すごく良くできる。 だけど、私は発表が苦手。 答えは分かっていても、みんなの前で話すのが恥ずかしい。 相手が翔くん一人なら言えるのに。 そんな時、翔くんは、 「柚子、さっきちゃんと言えてたじゃん。 大丈夫。柚子なら言えるよ。」 と言って、左手で私の右手首を掴んで一緒に挙げてしまう。 恥ずかしいったらない。 私は、せめて顔だけでも伏せるんだけど、そんな事で隠れられるわけでもなく、にっこり笑った夕凪先生に当てられてしまう。 私は頑張って発表するけれど、 「聞こえません。もう一度言ってください。」 と対角線上にある、教室の右後ろの子に言われてしまった。 すると、 「柚子、大丈夫。ちゃんと言えてたよ。 頑張れ。」 と翔くんが励ましてくれる。 私は、勇気を振り絞って、もう一度発表する。 今度はちゃんと聞こえたみたい。 よかった。
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