りんご飴が食べれない【人ごみコンテスト応募作品】

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 北公園は碁盤目状になった住宅街の中にぽつんとあった。僕が小学校の頃にジャングルジムがあった場所には背の高い草が生い茂っている。そのほかの遊具も撤去されてしまって、残っているのはペンキの剥げたブランコだけだ。   そのブランコに山ちゃんとヒデは座っていた。僕は自転車を公園の元々すべり台があったところにとめた。キリキリと錆びついたブレーキの音が夕暮れの公園に響く。その音に気づいたのか山ちゃんがぶんぶんとこっちに手を振った。逆光もないのに顔が真っ黒だ。毎日のように暑い日差しの下で走り回っているからだろう。僕はスタンドをたてて、ブランコへと向かった。 「光太久しぶり。休み中なにしてた?」   山ちゃんは近づいてきた僕にそう言った。フードつきのグレーのスポーツウェアの上下。その上からでも隆起した筋肉の形がわかる。 「ゲームして寝てた。特に話すこともないよ。山ちゃんは?」 「部活ばっか。マジでキツいけど、おかげで11秒台になった。中学2年でこれなら来年は全国目指せるかも」   山ちゃんが自分の太ももを揉みながら言った。 「さっきからその自慢話ばっかりなんだ」   となりのブランコに座って静かにしていたヒデが口を開く。黒フレームの眼鏡に空の筋雲が映っている。 「まあ全国大会レベルなのはすごいと言わざるを得ないけどさ」 「もっとほめてくれ、俺ほめられるとのびるタイプらしいからさ。ほめられたらタイムが0.2秒も変わったんだよ。すごくね」 「確かに、ほめられるとパフォーマンスが変わるってことが実験で分かってる」ヒデは自分の得意な分野の話をはじめた。こうなると長いって噂が学校中で絶えない。 「人間の脳の報酬系っていうところが、ほめられたときに活発になって、それによってさらに人間は努力したり、自信がついたりするんだ。だからどんどんほめていこう」 「山ちゃん改め、今日からは新幹線でいくか」僕は皮肉を込めて言った。山ちゃんはにっと笑ってから言う。 「新幹線。悪くないなあ。まあ俺の話はこれくらいで、光太知ってる? ヒデ医学部目指すってさ」 「マジ? めっちゃ勉強しなきゃだね」 「いや親がうるさいから、とりあえず医師免許もっておけって」 「さすがあの戸田家だよな」   戸田家の優秀さは僕たちの地域ではとても有名だった。なんでもヒデの親が経営している会社が去年、一部上場したらしい。正直何がどうすごいのかはよくわからないけれど、まあ僕みたいに学のない人間には一生かかってもできないことなのだろう。 「じゃあもうそろそろいくか」山ちゃんがブランコから腰を浮かした。   僕らはそれぞれのマウンテンバイクにまたがって、山中湖への道を急いだ。やっぱり山ちゃんは自転車でも速かった。
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