美月ちゃんと八重ちゃん

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美月ちゃんと八重ちゃん

彼女の名前は斉藤美月。中学1年生。ごくごく普通の女の子かと思いきや、実は、彼女には少し不思議な力があって、いやむしろ、彼女を不思議な存在が見守っているといった方が正解だろう。彼女を見守るのは、八重という女の子。これは美月がつけた名前。八重は美月が生まれたときからずっと一緒にいる。背が低く、30センチくらいの、日本人形のような、目がくりくりとした、とてもかわいらしい女の子。そして、美月の「幸せ」を管理している女の子。 管理といっても、難しいことではない。単純に、美月が「幸せになりたい」と思ったとき、八重はそれをかなえる。ただそれだけだ。「テストでいい点がとりたい」と美月が願えばそうするし、「明日は晴れるといいな」と美月が願えばそうするし、八重はただ、そういった存在。美月は八重のことを知っているし、八重も美月のことをよく知っている。だって、生まれたときから、ずっと一緒にいるんだから。 八重の存在は、美月以外の人には見えないようで、美月は小さいころ、八重とふたり、仲よくしゃべっていると、お母さんが不思議そうな顔をしたのを覚えている。そうか、八重ちゃんのことが見えていないんだ。そう美月が認識してから、八重とは、小さな声で話すようにしたし、もっとも、声を出さなくても八重とは話ができると、後々美月は気が付いた。 八重は美月を幸せにするが、それには限度があるという。八重のなかに蓄えられている美月の幸せが、すべて外に放出されたとき、八重は消えてしまうのだという。美月は何度もそう八重に教えられてきた。その八重に蓄えられたしあわせの量がどれくらいなのか、何度聞いても八重は教えてくれなかったし、実際、八重にもよくわかっていなかった。美月は八重が大好きだったから、ずっと一緒にいたかったから、だから、この話を聞いてから、あまりお願い事をしないようにしていた。だって、八重とずっと一緒にいたかったから。 それに美月はもともと優しい子だったから、美月がこの幸せになる力を使うのは、もっぱら、他人に対してのことが多かった。これは、美月が持つ不思議な力だが、美月には、これから危険なことにあう、そんな人のことがわかった。鉄棒から落ちたり、転んでしまったりする人。美月がふっと、そんな姿を思い浮かべると、実際にそのことが起こってしまうのだ。だから、美月は少しでも怪我か軽くなるようにとか、怪我をしないように、この幸せになる力をよく使って、そして結果的に八重の持つ、美月の幸せを減らしてきた。
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