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「業務は終わったんだろ? ちょいと頼みたいことがあってきたのさね」
いつもの家賃代わりの仕事ということだね。
「お安い御用です。で、どのような?」
「今日の昼間、『デスカウントショップ』にいったのさ。アンタもたまにいくだろう?」
そんな死を宣告される店に、足を踏み入れたことはございませんが。
「ディスカウントショッブですね? 私もたまに行きます」
樹原くんか優しくフォローする。えらい。秘書の鏡だね。
「そこで妙な噂を聞いたのさ。最近、深夜になると、この辺りに、人ごみができてるそうじゃないか」
「人ごみ? この辺りに? しかも深夜ですか?」
この辺りは街の中心部より、少しそれた、郊外になる。人通りがないわけではないが、人ごみができることは、かなりまれだ。
「それだけじゃなく、この辺りで、よくないことが起こっているようでねぇ」
「よくないこと、とは?」
「事故とかひったくりとかさ。アタシもここに住んで長いけど、そんなことは滅多に起こらなかった。何か悪いものを引き寄せてるのかねぇ」
首筋にひんやりするものは感じない。どうやら"本当"のようだ。
「やはり妖怪同士、惹かれあう……げふん。かしこまりした。調査致します」
「任せたよ。期限は3日。成功したらいつも通り、家賃はまけてあげるよ、でも失敗したら、家賃を倍にするからね!」
大家さんは軽快な身のこなしで、部屋をあとにした。77歳とは思えないね。まさに妖怪(誉め言葉)だよ。
「つまりそういうことさ。体で払う意味、誤解は解けたかな?」
「……信頼されてるんですね」
やはり樹原くんは、不機嫌なままだった。なんだろう。女性というのは、本当に分からない。
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