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夜になると、この辺りに人ごみが現れるということで、事務所に泊まり込むことにした。
樹原くんには帰ってもらった。夜更かしはお肌に悪いからね。
時計の針は、そろそろ深夜の12時。窓から外をうかがうが、人影らしきものはない。元々、夜は閑散としている街だ。
退屈であくびがでる。
(おなかがすいてきたな)
給湯室で夜食を探すが、カップラーメンも冷蔵庫も全て空だ。
──ぼくは普段、どうやって生活をしているんだろうか。
ふと戸棚の奥に、麻袋に包まれた何かを発見した。
(なんだ?)
手を伸ばし取り出してみる。振ってみると、さらさらのなにかが入っている。袋をあけると中には、一合ほどのお米が入っていた。
なんだろうこれ。少し考えて、あっ! と思い出した。
いつだったか、大家さんの仕事を手伝った時、いただいたものだ。
「これは食べるためのお米じゃないよ、神米っていってね、特別な護符の宿ったものなのさ。アンタも御守り代わりに持ってなよ」
とかなんとか、言われていたような気がする。
神米ねえ。個人的には新米のほうがありがたいなあ。などとバチ当たりなことを思い、事務所に戻る。
改めて外を見ると、街灯やビルの下、光のあたる場所が、黒くぼんやりと濁っているように見えた。
(……なんだろう?)
目を凝らすと、濁りは消えていた。気のせいだったかな?
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