人ごみ狂騒曲

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 気付けば残り1日となった。  その日も事務所に泊まり込み、外の様子をうかがう。  夜の11時。傍らには神米を置いて、やはり退屈な時間を過ごしていた。  テレビもつまらないし、本も読み切ってしまった。ネットの動画でも見てみよう。 「──"言魂"というのは、言葉に魂が宿るから、言魂というのです。お米に毎日、『馬鹿野郎』と『ありがとう』と言い続けたお米の比較が……」  へえ。言葉には魂が宿るから、言魂か。  動画には、『馬鹿野郎』と罵倒され続けたお米が黒く変色し、『ありがとう』と言われたお米は、きれいに輝く様が映し出されていた。  ヤラせ? でも嫌いじゃないな、そういう話。  ぼくも暇だし、お米に言葉を投げかけよう。神米をお皿に移し、感謝を述べてみる。 「ありがとう、ありがとうっ!」 「いつもありがとう! ありがとうございます!」  ふぅ。ありがとうだけじゃ飽きてきた。しかし言葉が浮かばない。 「えーっと、白くて素晴らしい! 日本人は、お米を食べようっ」 「いい形してるねっ! その……えっと、興奮してきたよ!」  これ、誉め言葉? 「ナイス・ライス!」  ──ん!?  気配を感じて振り返る。物凄い哀れみの目をした樹原くんが立っていた。 「いやその、これは違うんだ!」 「…………お疲れなんですね、新妻さん」  苗字で呼ばれた。距離がぐっと遠のいたよ樹原くん。 「あのね、これはお米の……」  弁解しようとして振り返り、偶然にも窓の外の異変に気付く。  昨日よりハッキリと、黒く濃い影が見える。それは大勢の人だった。  深夜の郊外で、このビルを囲むように近づいてくる群衆は、明らかに異様だった。 「樹原くん、あれなんだと思う?」 「人ごみですね。あれ全部、お客様だったら、安泰だと思います」 「相変わらず冷静だねぇ。でも多すぎて、対応できないかなあ」  窓の外から見える人ごみの群衆は、その場に佇むもの、所在なさそうにうろついている者など様々だ。 「所長、彼ら、おかしいと思いません?」  異変に気付いたのは、樹原くんだった。
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