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「土方先生。僕にもこの可愛い子達を紹介してくださいよ」
不意に背後から聞こえた声に視線を向けると、土方先生に負けないくらい背が高くて格好いい人が立っていた。
キラキラと輝いている茶色い瞳は、真っ直ぐに見つめられたら吸い込まれてしまいそうなくらい綺麗だ。
士英館高校は学年によって制服のネクタイとリボンの色が違う。この人のネクタイの色は真紅。ということは2年生……先輩だ。
「そうだな。 こいつは2年の沖田 奏士。我が剣道部のエースで、我が校トップレベルの女たらしだ。関わらない様に気を付けろよ」
「どんな紹介ですか。ま、本当だからいいですけどね」
沖田先輩はそう言って飄々と笑った。
否定しないんだ……女たらし。
身長は土方先生には負けるけど。細身で涼しげな表情。柔らかそうな茶色の髪。いたずらを企んでるみたいな瞳。誰がどう見ても間違いなくイケメン。黙っていても女の子が寄ってきて当たり前。そんな人。
「今度はこっちだな。このでかい方が七瀬 美羽。こっちの小さいのが花宮 桃。
2人とも俺のクラスだ。何かあったら手を出すんじゃなく、助けてやってくれ」
「あはは。分かってますよ。大きいのが美羽ちゃんで、小さいのが桃ちゃん。よろしくね」
「「よろしくお願いします」」
ぺこりと頭を下げた私たちを見て、沖田先輩が満足そうに微笑んだ。
「ここにいるってことは、剣道部に入部するの? 」
「はいっ。マネージャー希望です。よろしくお願いしますっ」
元気よく手を挙げた美羽ちゃんの肩を、沖田先輩がポンと叩く。
「わぁ、嬉しいな。期待してるよ。でも、女癖が悪い奴等ばっかりだから気をつけてね。まぁ、僕が言うのもなんだけど」
「私は大丈夫ですっ」
「あはは。美羽ちゃんは逞しいね。あ、ごめん。僕、そろそろ行かなくちゃ」
沖田先輩は、じゃあね。と言うと、小さく手を振りながら爽やかに去っていった。
沖田先輩が向かった先では、数人の女子達がはじける様な笑い声をあげている。
もしかしたら、あの人達は先輩のファンなのかもしれない。
「沖田先輩って絶対モテるよね」
美羽ちゃんが小さく呟いた言葉に、何度も頷く。
「間違いないと思う。逆に、あの見た目で全然モテなかったらおかしいもん」
「確かに、桃の言う通りだわ」
剣道部のブースの前は沢山の女の子達で賑わい、沖田先輩の姿はあっという間に見えなくなってしまった。
私は驚きに目を瞬かせながら、凄い。まるで本物のアイドルみたい……。そんなことを考えていた。
沖田先輩の周りがキラキラと輝いていて眩しい。思わず目を細めながら、彼は間違いなく私とは住む世界が違う人だ。そう確信していた。
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