恋する士英館高校

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奏士(かなと)side 賑やかな掛け声が飛び交う道場に、僕の小さなため息が溶けて消えた。 ふぅ……。なんだか今日は調子が悪いな。こういう時はさっさと切り上げるに限るよね。 「ごめん。今日はもうやめとく」 打ち合いを申し込んできた高杉(たかすぎ)先輩に背を向けて、開け放った道場の窓から外に出る。 あー、良い風吹いてるね。 グラウンドでは野球部が朝練の真っ最中。毎日毎日、元気だね。この暑い中、外で何時間も練習するなんて本当に尊敬する。僕は屋外は苦手だから、絶対に無理だね。 あ、僕に気づいたマネージャーの女の子が弾けるような笑顔でこちらに手を振っている。 女の子って本当に可愛いなぁ。愛想良く手を振り返しながら、そんなことを考える。 ありがたいことに。僕から声をかけることはほとんどない。いつも、女の子の方から話し掛けてくれるからね。 練習の時も、試合の時も、普段の学校生活の時も。彼女たちがキラキラした目で見つめてくれるのは、とても気分が良い。これからも頑張らなきゃなって思わせてくれる。 僕を好きだと言ってくれる女の子達は、みんな平等に愛してあげたい。そう思ってる。 それが、女の子達の望みであり、僕の役目でもある。多分だけどね。 名門剣道部のエースも、色々あるんだよ? これでもね。 「土方先生。格好良すぎっ」 不意に聞こえたその声に、右隣の窓に視線を移す。開け放たれた窓の陰に女の子が2人。それでも隠れているつもりなのかな。本当に可愛いなぁ。 「美羽ちゃん。声、もう少し小さくね。バレたら怒られちゃうよ」 「ごめんっ。だって、隼人さん、あ、土方先生格好良すぎるんだもんっ」 何やらテンション高めの長身の女の子と、小動物みたいにきょろきょろしている小さな女の子。 あれ? なんだか見覚えがあるな。あの子たちは確か……。
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