恋する士英館高校

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「美羽ちゃん。桃ちゃん。おっはよ」 背後から肩に腕を回して、2人の間に入る。こうすると、2人の身長差がはっきり分かって何だか可笑しい。 こうして近くに並ぶと、桃ちゃんってめちゃくちゃ小さくて可愛いかも。 「わっ。お、沖田先輩? 」 「っびっくりした……あ、おはようございます」 驚き方もそれぞれだね。美羽ちゃんは驚いた拍子に僕の腕から飛び退いたけど、桃ちゃんはそのままの体制でぺこりと頭を下げている。 ふーん。悪くないかも。僕は気になっていた質問を2人に聞いてみることにした。 「ねぇ。美羽ちゃんは土方先生のファンなの? 」 「え? 違います、違います。ファンなんかじゃないです。私は本気で土方先生のことが好きなんですっ」 力強く握りしめた美羽ちゃんの拳が、やっぱり逞しさを感じさせる。本気って気持ちもバンバン伝わってくる。素直な子ってやっぱり可愛い。 「へぇ、土方先生のこと本気なんだ。いいと思うよ。教師と生徒……禁断の恋ってやつだね。僕も嫌いじゃないよ、そういうの。 でもね、美羽ちゃん。あの人は結構悪い人だから気をつけた方がいいよ。これ、僕からの忠告ね」 「えー? 土方先生が悪い人? 絶対にあり得ないですよ」 そんなことを呟きながら、美羽ちゃんが土方先生を観察している。そうそう。よーく観察してね。そのうち真実が見えてくるよ。 さて。そろそろ本題に入ろうか。僕は腕の中で静かにしている桃ちゃんに視線を向ける。 「次は桃ちゃんの番だよ。君は誰のファンなの? 」 「沖田先輩……」 桃ちゃんは僕の名前を呟いたきり、じっとこちらを見つめている。 え? 下から見上げられながら名前を呼ばれるって、なんだかドキドキするかも。 「そっか。桃ちゃんは僕のことを好きになっちゃったんだね。見る目あるじゃない」 素直で可愛いなぁ。素直な子は好きだよ。桃ちゃんは顔も仕草も名前も可愛いし。見事、僕の彼女候補に合格。 「じゃあ、僕と付き合っちゃう? 」 なんてね。残念ながらそれは無理。不幸にしちゃうって分かってるのに、付き合うことは出来ないよ。こんな僕だって良心くらい持ち合わせてるんだ。 桃ちゃんは困ったように眉根を寄せている。そんな顔も可愛いって思ってる自分にちょっと呆れる。 「嘘だよ、冗談。そんな困った顔しないでよ」 「そんなことより、沖田先輩。体調が悪いんじゃないですか? 」 「え?」 「凄く顔色が悪いです。今すぐ保健室に行った方がいいと思います」 桃ちゃんの言葉に、さっきから冷や汗が止まらないことを思い出す。 額の汗を拭った右手が小刻みに震える。どうして今まで気付かなかったんだろう。ちょっと油断してたかも……。 「これくらい大丈夫だよ」 そう呟いた途端——一気に血の気が引いていくのが分かった。あ、これヤバいやつかも……。 足に力が入らなくなって、ぐらりと身体が傾いたのが分かった。あぁ、このまま倒れたら絶対に痛い。間違いない。 「沖田先輩っ」 桃ちゃんは僕を支えようと頑張っていたけど、どうやら体勢を崩して地面に座り込んでしまったみたいだ。 「……ごめん。重たいよね」 「私は大丈夫ですから。そのままでいて下さい。今、美羽ちゃんが土方先生を呼びに行ってくれてます。だから、もう大丈夫です」 女の子に支えてもらうなんて格好悪い……。でも、今はそんなこと構っていられないくらい辛い。 土方先生と部員達の慌てた声が遠くの方で聞こえる。迷惑かけてごめんなさい。僕はもうダメです……。 「桃ちゃん……本当にごめんね……」 僕は桃ちゃんの小さくて細い肩に頭を乗せると静かに目を閉じた。
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