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キーンコーンカーンコーン。
無駄にビブラート満点のチャイムが授業の終わりを告げる。
「よしっ。飯だ、飯だ。お前はどうする。もう少し寝ていくか? 」
ベッドから跳ねる様に飛び起きた高杉先輩が、漫画をカバンに放り込んでから、忙しなく上靴を履いて立ち上がる。
この流れる様な一連の動作が、彼の瞬発力の素晴らしさを証明していると僕は思う。え? バカにしている訳じゃないよ?
「僕も行く。体調はだいぶ良くなったし、寝てるのは退屈だし。それに、ちゃんと食べなきゃまた倒れちゃうからね」
「そうだな。お前は少食すぎるんだよ。なんか食べてると思えば甘ったるい菓子ばっかりだしな。もっと栄養のあるものを食え‼︎
よしっ。そうと決まればさっさと行くぞ。今日の収穫は幾つだろうな。坂本に負けるわけにはいかねぇ」
収穫と呼ばれているのは、女の子達が毎日持ってきてくれる手作り弁当のこと。
僕も昔は受け取ってたけど、今は作らなくていいよって断ってるんだ。何個も何個も貰っても食べきれなくて勿体無いし。
それに、早起きしてお弁当を作ろうとしてくれたその気持ちだけで充分だから。
全く。ファンの女の子たちから貰うお弁当の数を日々競い合ってるなんて、本当この人たちはいい性格してる。
ファンが1番大切だ。っていいながら、2人とも他校にちゃーんと彼女がいるあたりも、しっかりしてるというか、ちゃっかりしてるというか。
「沖田先輩っ」
屋上へと続く階段に足をかけた時。背後から名前を呼ばれて振り返ると、桃ちゃんが立っていた。
「桃ちゃん、どうしたの? 」
「あの……移動教室の帰りに沖田先輩の姿が見えたので走ってきました。もう、体調は良くなりましたか?」
桃ちゃんは少し息を弾ませて、頬をピンクに染めている。
僕の姿を見つけたから走って来た? なにそれ、可愛い以外の言葉が見つからないんだけど……。
「うん。だいぶ良くなったよ。ありがとう。後、ごめんね。桃ちゃん、怪我しちゃったんでしょ? 」
「あ、そんなの気にしないでください。たいした傷ではありませんので。それより、沖田先輩が怪我しなくて良かったです」
桃ちゃんの細い足に貼られた、大きめの絆創膏が痛々しい。きっと、しばらく痛むだろう。
そんなに可愛い笑顔を向けて貰う資格なんて僕にはないよ。むしろ、怒ってくれたらいいのに。
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