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「あ、そうだっ。これ、どうぞ。さっき、高杉先輩と坂本先輩に、沖田先輩の好きなものを教えてもらったので買ってきました。良かったら飲んでください」
桃ちゃんが差し出した小さな手には、いちごみるくの紙パックがのっている。間違いなく僕の大好物だ。
僕の為にわざわざ自動販売機で買ってきてくれたなんて……どうしよう、嬉しすぎる。
「ありがとう。桃ちゃん」
「いえ。じゃあ、私そろそろ行きますね」
ぺこりと頭を下げた桃ちゃんが僕に背を向けると廊下を駆けて行く。
身長の小さい彼女は、あっという間に他の生徒たちに紛れて見えなくなってしまった。
なんだろう。ちょっと寂しい。
「奏士が受け取るなんて珍しいな」
階段の踊り場から高杉先輩が顔を覗かせている。その顔は、何か言いたげだ。
確かに。僕は基本的に何も受け取らないことに決めている。用意してくれる女の子達に申し訳ないし。気分で受け取ってしまったら、それこそ不平等だ。
いつもだったら、受け取らずに断っているはずなのに……。どうして受け取っちゃったんだろう。
「本当だ……。貰っちゃった」
「素直に貰っておけばいいさ。その様子だと、嬉しかったんだろ? 」
「うん。嬉しかった」
「良かったな」
手のひらに乗っているピンク色のパックをきゅっと握りしめる。この、いちごみるくは勿体無くて飲めないな。
階段を一つ飛ばしに上りながら、僕はそんなことを考えていた。
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