恋する士英館高校

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坂本side 屋上の柵に寄りかかって、奏士がぼんやりと空を眺めている。その手に握られているのは、まだ開けられていない、いちごみるく。 大好物に手をつけないなんて、珍しいこともあるもんだな。 「なぁ、中休みに保健室に来てた小さくて可愛い1年生って奏士のファンなのかな」 「小さい? あぁ、花宮 桃か。いや、ファンとは違うと思うぞ」 「そうなの? あんなに心配してたから、てっきりファンなのかと思ってたよ」 「中休みだけじゃない、昼休みもそうだ。誰か1人でもファンの子が保健室に来て、奏士の様子を見ていったか? 誰も来てないだろ? つまりはそういうことだ」 郁人の言う、そういうこと。が、何を指すのかは大体分かる。 奏士のファンの子たちは妙に物分かりがいいってことを言いたいんだろう。 嫉妬から過激なことをしたり、言ったりすることも無い。 どんな奏士でもありのままを受け入れる——そんな感じだ。 でも、それと花宮さんにどんな関係があるっていうんだ。 「花宮 桃がファンだったら、保健室には来てないはずだ。 何人ものファンが保健室に押しかければ奏士に迷惑がかかる。 それが分かっているから、あの子たちは様子を見に来ない。 抜け駆けするのはファンの間ではご法度だからな。 つまり、保健室に来た時点で花宮 桃はファンではないってことになる。 まぁ。あーゆー子は好き嫌い関係なく誰にでも優しいもんだ。 自分に有益なことしか興味のないお前も少しは見習ったらどうだ」 そう言い放った郁人(いくと)が真剣な顔で弁当を頬張っている。 視線の先は、今にも風で(まく)り上げられそうな女子のスカート。本当、バカだな。 「それなら、俺にも優しくしてくれるかな」 「あ? してくれると思うぞ。なんだ、お前も惚れたのか? 」 「まぁ、そんなもんだね。ん? お前もってどういうこと」 俺の言葉にニヤリと口角を上げた郁人が、箸を持ったまま奏士を指差す。 「あの、いちごみるくは花宮 桃からの差し入れだ」 「花宮さん、本当に買ってきてくれたんだ。良い子だね、あの子。そして、奏士はそれをきちんと受け取ったってことか」 「あぁ。いつもはアイドルスマイルで上手くかわしてるってのに、今日は珍しく嬉しそうな顔をしていて驚いた。あいつもあんな顔するんだな」 みんなを平等に愛したいから、何も受け取らないよ。なんて、いつも言ってるあの奏士が……。 これは、ますます見逃すわけにはいかないな。 「でも、どうしてだ。奏士が普段から何も受け取らないって知ってるお前が、どうしてわざわざ花宮 桃に奏士の好物を教えたのか不思議だったんだ」 「それは、なんとなくだよ。もしかしたら、花宮さんからだったら受け取るんじゃないかなって思ったんだよね」
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