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保健室のドアを躊躇いがちに開けた花宮さんを見た時——これは、面白いことになりそうだ。そう思った。
奏士は剣道部の次期部長だ。いつまでも雲のようにふわふわしているのは頂けない。
葛藤や闘争心を身につけることも必要だ。
運悪く、我が剣道部には奏士よりも秀でている部員がいない。つまりは一人勝ち状態だ。
そういう訳で、今の奏士には恋をすることが必要不可欠だと僕は思っていた。
ファンの子は控えめすぎる。ちょっと天然で、恋に疎くて、尚且つ奏士を振り回すような子だったら適任だ。
「奏士はこう見えて甘党なんだ。お菓子ばかり食べているし、好きな飲み物はいちごみるく。女子みたいだと思わない? 」
俺の問いかけに、花宮さんは目を瞬かせた後、クスリと笑い声をこぼした。
その笑顔を見た時、俺は確信したんだ。あ、この子だ。ってね。
「お前って本当そういうところあるよな」
え、何かな? そんな辛辣な目で見られるようなことしたっけ、俺。
「そういうところってなんだよ? 」
「他人の人生を娯楽かなんかだと思ってるところだよ」
呆れたように息を吐いた郁人は、まだ女子のスカートを熱心に見つめている。
もしかしたら、念力を使って暴風でも起こそうとしてるのかもしれない。
そんなことはまず無理なんだから、さっさと諦めればいいのに。
「なぁ、郁人。俺、決めたよ」
「あ? 何を決めたんだ」
しつこくスカートを見つめながら「よしっ。もう少し強く吹けっ」なんてくだらないことを口走っている郁人の視界に体を滑り込ませる。
俺が邪魔かい? そうだろうね。でも、今は俺の話を聞いてもらうよ。
「誰にでも優しくて可愛い花宮 桃さんを剣道部のマネージャーにスカウトするよ」
「……はぁ? 」
「うちは天下の士英館剣道部だよ? マネージャーもそれなりに話題性がないとね」
「話題性……ね。龍世の考えることは相変わらずだな」
「なんのことかな? 俺は、部長の仕事をきちんとこなしてるだけだよ」
そうさ。部員のみんなが、気持ちよく鍛錬に励める様に環境を整えてるだけ。それだけさ。
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