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桃side
お昼休み。いつものメンバーが中庭に集合中。
「え? みんな剣道部なの? 」
まぁ。美羽ちゃんが剣道部のマネージャー希望なのは、ずっと前から知ってたけど……。
「陸も一樹くんも剣道やってるんだね」
「あぁ。俺は剣道で上を目指したくて士英館を選んだんだ」
そうだったんだ。陸って普段は物静かで何を考えてるか分からないことが多いけど……胸の中には熱い情熱を抱えているのかもしれないな。
うん。確かに、陸ってそんな感じ。
「ねぇ、一樹。あんた絶対弱いでしょ? 」
一樹くんを指差しながら、美羽ちゃんがクスクスと笑っている。
「あぁ、弱いですよ。どうせ陸には勝ったことねぇし」
「やっぱり?そんな気がしてたっ」
お腹を抱えて大爆笑している美羽ちゃんの両頬を、一樹くんがふにっと摘む。
「そんなに笑うことないだろっ」
「ふぉふぇん、ふぉふぇん。いふぁいっふぇふぁ」
「じゃあ、謝れ」
「はぁ? 謝りませんけど? 」
「ふざけんなっ。おい、待てよっ。美羽ーっ」
すっかり、日々の恒例行事になりつつある、一樹くんと美羽ちゃんの追いかけっこ。
中庭の木を避けながら走り回っている2人は、とっても仲良しで微笑ましい。
「桃は決めたのか? 」
「え? 」
隣に座っている陸が、ヒラヒラと風に揺らしている入部届けをそっと掴む。部活名の欄にはまだ何も書かれていない。
「う〜ん。まだ……」
特に入りたい部活ないんだよな。どうしよう。
新しいことに挑戦してみようかなって思うんだけど。なかなか勇気が出ない。
入部届けを書く前に、人見知りを克服する講座にでも参加しようかな。
「とりあえず、色々と体験入部してみたらいいんじゃないか? 」
「うん。それも考えてるんだけど、やっぱり1人だと心細くて勇気が出ないんだよね」
「桃は人見知りだもんな」
「陸だってそうでしょ? 」
陸は、まぁな。と言って余裕の笑みを浮かべている。
極度の人見知りなのに、入部届が配られた時、陸は迷うことなく「剣道部」と記入していた。
陸にとって剣道って、凄く大切なものなんだろうなってあの時思った。
私にも、迷わないくらい大切なものがあったら良かったのにな……。
「あっ。花宮さんっ。やっと見つけたっ」
自分の不甲斐なさに小さく息を吐いた時。
不意に、聞き覚えのある声に名前を呼ばれて視線を上げた。
ん? あれって、坂本先輩と高杉先輩だよね。2人が猛スピードでこちらに走ってくる。そんなに急いでどうしたんだろう。
「花宮 桃。探したぞっ」
目の前に立った高杉先輩が、私の両肩に手を置くとニカッと笑った。
あれ? なんだろう。嫌な予感がする。
「えと……どうかされましたか? 」
「全くお前は。この俺様が直々に会いに来てやったというのに、なんだ、その気の抜けた返事はっ」
「す……すいません」
「郁人。そんなことを言ったら、花宮さんが怯えてしまうよ。ごめんね」
「あ……いえ」
この間も思ったけど。高杉先輩ってやっぱりテンションが高い。
落ち着いた雰囲気の坂本先輩が一緒に来てくれて良かった。切実に。
「あの。それで、私に何の御用ですか? 」
「そうそう。今日はね、花宮さんをスカウトしに来たんだ」
「ス、スカウト、ですか? 」
坂本先輩が「そうだよ」と言って、おもむろに私の前に入部届を差し出す。
「剣道部のマネージャーになってほしいんだ」
「え? 剣道部……の、マネージャーですか? 」
「そうなんだ。僕たちは、自分で言うのもアレなんだけど……応援してくれるファンの数はとても多いんだ。
だけど、いざマネージャーとなると、引き受けてくれる人が中々いないのが現実なんだ。
まぁ、それなりに仕事は大変だから、もちろん無理にとは言わない。
だけど、花宮さんは気配りの出来る優しい子だから、マネージャーになってくれたら部員達もとっても喜ぶと思う。
まぁ、1番は僕かもしれないけどね。どうかな、花宮さん」
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