恋する士英館高校

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陸side 頬にあたる風が心地いい。 「お疲れ様。陸って、すっごく強いんだね。びっくりしちゃった。はい、タオル」 桃が差し出したタオルを受け取って、次々と伝っては落ちる汗を拭う。 「悪い」 「どういたしまして。ちゃんと水分補給もするんだよ? あ、ちょっと行ってくるね」 桃は柔らかく微笑むと、少し離れた場所で手招きしている沖田先輩のところへと走って行った。 2人が何を話しているのかは聞こえない。俺は小さく息を吐いてタオルを頭からかぶった。 「岡田くん。君には感心したよ」 ぽんと肩を叩かれて顔を上げると、目の前に坂本先輩が座っていた。 「岡田 陸。1年で、奏士と互角にやり合える奴がいるなんて俺様は感動したぞ」 坂本先輩の隣では、いつもふざけてばかりいる高杉先輩が神妙な顔をして頷いている。 褒められるのは素直に嬉しい。 自分が今までやってきた努力を認められた様な気がするから。 間違っていなかった。そう思えることは、明日への糧になる。 「ありがとうございます。これからも頑張ります」 士英館の剣道部は名門中の名門だ。 先輩たちが必死に守ってきた功績に、俺たちの代で泥を塗るわけにはいかない。 ここに入部したからには常に上を目指し、手を抜くことなど許されない。 俺は誰にも負けたくない。 「そうなんだ。1年のエースである岡田君には、これからも頑張ってもらいたいと思っているんだ。 君はとても努力家で、尚且つ、生まれた持った素晴らしい才能とセンスがある。 俺たちは君に多大なる期待を寄せている。だからこそ守ってほしい約束があるんだ」 「約束……ですか? 」 「そう、大事な約束だ。 これは、士英館高校の剣道部———その中でもエースの部員に代々受け継がれている掟なんだ。 だから、守ってくれるとありがたい」 いつになく真剣な表情をした先輩方に、俺は「分かりました」そう言って、ただただ頷くことしか出来なかった。 誰にも負けたくない。俺は絶対にエースになる。 ——この時の俺は知らなかったんだ。 剣道部の掟が、俺と桃の距離を遠ざけてしまうことになるなんて……。
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