恋する士英館高校

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美羽side なんだか廊下がやけに賑やかだなぁって思っていたら、その人は突然に現れた。 教室のドアからこちらに手を振っているのは、まさしく沖田先輩っ。 ちなみに、先輩が手を振っていた相手は私じゃなくて、桃だよっ。 「桃ちゃん。ちょっといいかな」なんて、気安く話しかけないで下さい。 桃は私の大切な友達なんですからねっ。変なことに巻き込まないで下さいねっ。 なんて、心の中で叫んでいる私にはお構いなしの桃は「沖田先輩どうしたんだろう。ちょっと行ってくるね」なんて、呑気に走って行った。 どうしたんだろう……じゃないよ。 2年の沖田先輩が、1年の教室にわざわざ来たってことは、そういうことでしょうがっ。 「え、もしかして……」くらい思いなさいよねっ。 桃が無防備すぎるっ。 沖田先輩はアイドル並みに人気者だ。 だから、校内を歩けば、沖田先輩の後ろに長ーい列が出来たっておかしくない。 それなのに、そんな事態は起きる気配すらない。 すれ違いざまに軽く手を振ったり、微笑んだりする沖田先輩を、ファンの女の子達は付かず離れずの距離から見守っている。 なんて出来たファンなんだっ。 もっと群がったりしようよ。追いかけ回して無駄にボディタッチしようよ。 そうじゃないと、沖田先輩と桃が……2人の世界に入っちゃうじゃないっ。 沖田先輩と桃は、廊下の窓に背を預けて何やら楽しそうに話している。 時々聞こえてくる桃の笑い声に、胸の奥がざわざわしてくる。 もうっ。何を話してるのかな。私の全神経が耳に集中してるよっ。 さりげなく2人の側に移動。多分、気づかれてはいないと思う。出来るだけ2人の方に耳を近づけて、全力で聞き耳をたてる。 「あ、そうだ。1番大事なこと言うの忘れてた」 「大事なこと、ですか? 」 「そう、大事なこと。えっと……今日、部活終わったらさ、桃ちゃんと一緒に帰りたいんだけど……どうかな」 なんだかとっても意外だった。 爆モテの沖田先輩が、こんな風にちょっと躊躇(ためらい)いながら女の子を誘うなんて……。 もっと上から目線で「俺が一緒に帰ってやるよ。嬉しいだろ? 」とか言うのかと思ってたのに……。 土方先生は、沖田先輩のことを遊び人だ。って言ってたけど、本当にそうなのかな。めちゃくちゃ良い人そうなんだけど。 「あ、はい。でも、私でいいんですか? 」 「うん。桃ちゃんがいいんだ。僕、もっと桃ちゃんのことが知りたいなって思ってるんだよね。迷惑かな」 「迷惑なんて、そんなことないです。私も沖田先輩のこともっと知りたいです」 はいはい。ちょっと待って。桃ってば、自分が何言ってるか分かってるのかな。 いくら沖田先輩が良い人そうでも、今のは言っちゃダメなやつだからっ。 沖田先輩が桃のことを好きなのは構わないけど、桃は違うでしょ? 岡田のことはどうするのよっ。 「美羽っ。痛い痛いっ。痛いって」 「あ、ごめん。一樹」 ついつい興奮しすぎて、一樹の肩を鷲掴みにしてたみたい。うっかり、うっかり。 「あぁ、良かった……。じゃあ、また後でね」 「はい。また後で」 沖田先輩は桃に向かって手を振っている。何度も何度も振り返って……。 沖田先輩って、基本的にいつもニコニコしてるけど———部活の時はめちゃくちゃ殺気立ってて怖いんだよね———今日はなんだか雰囲気が違った。 爆イケの先輩も好きな女の子の前だとあんな感じなんだ。ふーん、へー。 はっ‼︎ それはさて置きっ。
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