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桃side
指先でゆらゆらと揺れているうさぎのキーホルダーは、見れば見るほど沖田先輩の小さな分身みたい。
可愛いくて、見ているだけでついつい笑顔になっちゃう。
たまたま通りかかったゲームセンターで、クレーンゲームの中にこのうさぎを見つけた時——「沖田先輩だ」って思った。
沖田先輩はいつもふわふわした雰囲気で、優しい笑顔を振りまいて、周りの人達を幸せな気持ちにさせてくれる。
うさぎに負けない愛されキャラだと思うんだ。沖田先輩はそんな自分の魅力に気づいてるのかな。
「やっぱり、沖田先輩みたい」
沖田先輩は、きっとこんな風に小さくなっても、誰よりも剣道が強いんだろうな。
一寸法師みたいに、あっという間に敵を倒してお姫様を助け出すの。そして、2人はハッピーエンドを迎えるんだ。
「ねぇ、桃ちゃん」
「はい」
明らかに何か言いたそうな顔をしているのに、黙ったままで何も言わない沖田先輩に、私は首を傾げる。
「沖田先輩、どうしたんですか? あ、もしかしてまた体調が悪くなっちゃいましたか? 」
見上げた空はすっかり茜色に染まっている。お天気が良いから外に出てみたけど、やっぱり中で話せば良かった。
沖田先輩は屋外が苦手って知ってたのに……。私のせいだ……。
「寒くないですか? 」
そう言って着ていたブレザーを先輩の肩に掛けた時——不意に柔らかく抱きしめられて思わず息を止めた。
まるで何かから守ってくれているみたいな優しい仕草に、胸の奥がきゅんと音を立てた。
「僕、桃ちゃんのことが好きだよ。誰にも渡したくない」
え? ど、どうしよう……。
胸がドキドキし過ぎて何も言葉が出てこない。顔が熱い……。
少しだけ体を離した沖田先輩が、私のおでこにそっと口付けると、悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
「これはね、桃ちゃんが僕のことを好きになる魔法だよ」
「ま……魔法? 」
「そうだよ。桃ちゃんは、僕のことしか考えられなくなっちゃいました」
「なんてね」と笑った沖田先輩が、私の髪を優しく撫でてくれる。
こんなことになるって分かってたら、もっとちゃんとトリートメントしたのに……。髪の毛ボサボサで恥ずかしいよ。
「桃ちゃん、可愛い」
すぐ目の前にある沖田先輩の笑顔は眩しいくらいにキラキラ輝いている。
こんな王子様みたいな人が私のことを好き?
そんなことって起こり得るのかな?
——沖田先輩と私は住む世界が違う。
これはきっと……夢だよね?
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