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「悪かったな」
「ううん。悪いのはどんくさい私だから……っ、痛」
陸が手際よく拾い集めてくれた本を抱えて立ち上がろうとした瞬間、左足首に刺すような痛みが走った。え、嘘……。
「もしかして足捻ったのか? 」
「ううん、これくらい大丈夫だよ。平気、平気。っ、痛た」
「大丈夫じゃないだろ。保健室行くぞ」
「……うん」
陸に支えてもらいながら、ゆっくりと廊下を歩く。
こうして陸と2人で話すの久し振りだな。今でも、何か楽しいことや嬉しいことがあると、陸に報告したくなる。
でも、陸はいつも忙しそうにしてるから、話しかけるの躊躇っちゃうんだよね。
席も離れちゃったし、なかなか話せない日々が続いて……だんだん、陸との距離が遠くなっちゃうって思ってた。
だけど、さっき「桃は大切な友達だから」って陸が言ってくれて気づいたんだ。
前みたいにずっと一緒にいなくても、私たちは大丈夫なんだって。
「ねぇ、陸。迷惑かけてごめんね。あの子達にも、今度ちゃんと謝るね」
「そんなこと気にするな。桃が謝る必要もない。ぶつかったのはお互いの不注意だ。どちらかが悪いわけじゃない」
「そう? それならいいんだけど……」
「ここで大丈夫か?」
「うん」
「ちゃんと見てもらえよ? さっきの本は、俺が教室に持っていくから心配するな」
「ありがとう」
陸は「じゃあな」と言って私に背を向けた。少しだけ逞しくなった気がするその背中を見つめながら、私は小さく息を吐く。
もっと色々話したかったのに、思っていたよりも保健室が近かった。今度はいつ話せるかな……。
そんなことを考えながら保健室のドアに手を掛けた時——これだけは伝えなきゃ。そんな衝動に駆られて陸に声をかけた。
「……っ、陸っ」
「どうした? 」
さっきよりも小さくなった陸の姿に、ちょっとだけ胸が苦しくなるけど……。私は勇気を振り絞って言葉を紡いだ。
「私……。陸のこと応援するって決めたからっ。前みたいに、一緒に過ごす時間がなくなったとしても……陸のこと、ちゃんと見てるからねっ」
陸は、はじめての男友達。だから、どう接していいのか分からなくなる時もある。
だけど。陸が頑張るって決めたなら、他の誰よりも応援してあげたい。
「陸は、私の大切な友達だよっ」
こんなに大きな声を出したのはいつぶりだろう。私の気持ち、ちゃんと陸に伝わったかな……。
「俺も……」
「え? 」
「俺も、桃のこといつだって見てる。お前が困った時は絶対に助けに行く。そのこと、忘れんなよ」
陸はニヤリと笑うと片手を挙げて廊下を歩いて行った。
これが、今の私たちの距離。離れていても、いつだって傍にいる。だから、大丈夫。そう思えた。
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