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「先輩……私のせいで怒られちゃいましたね」
隣を歩いている桃ちゃんが、気遣わしげに僕を見上げている。
「怒られるくらいどうってことないよ。僕は例え誰かに怒られてでも、桃ちゃんと一緒にいたいって思ってる。こういうの……ダメかな」
まだ付き合ってもいないのに———付き合っていたとしても———重たいって思われちゃうかな。
焦り過ぎてるってことは、自分でも分かってるんだ。
だけど、どうしても止められない。あー……僕の自制心は一体どこに行ってしまったんだろう。
「ダメじゃ、ないです。私のことを心配して部活を休んでくれたことも、私の為に怒られてくれたことも……凄く嬉しかったです。でも……」
「でも? 」
「本当に私なんかでいいんですか?
沖田先輩は、初めて会ったあの日から、私とは住む世界が違う人だって……ずっと、そう思っていました。
沖田先輩はいつもキラキラ輝いていて、私には眩しいくらいです。
一緒にいると胸がドキドキして苦しくなります。でも、もっと一緒にいたいし、もっと知りたいって思います。
だけど、私はきっとこれからも沖田先輩に相応しい女の子にはなれないと思うんです。だから……」
すっかり俯いてしまった桃ちゃんは、耳まで真っ赤に染まっている。あー、もう、本当に可愛いな。
「ねぇ、桃ちゃん」
「……はい」
「桃ちゃんは何か勘違いしてるよ。
僕は、桃ちゃんに変わって欲しいなんて少しも思ってない。
僕は今のままの桃ちゃんが好きなんだ。
それに……相応しくないのは僕の方だよ。
真っ直ぐで優しくて可愛くて……そんな桃ちゃんに相応しい男になりたいっていつも思ってる」
桃ちゃんになら、格好いい自分だけじゃなくて、格好悪い自分も見せられる。そんな気がするんだ。
僕はみんなが思っているほど格好良くなんかないんだ。足掻いて、踠いて、必至に生きてる。
こんな格好悪い僕には、桃ちゃんが必要なんだ。
「今は僕のことを好きじゃなくても構わない。
でも、いつか必ず、桃ちゃんは僕のことを好きになる。僕がそうさせてみせる。
だから、僕の彼女になってください」
今までは、告白されて付き合っていた。
好きだと言ってくれる子の気持ちに応えてあげることが優しさなんだと思っていた。
でも、僕は間違っていたんだと思う。
僕は、きっと誰のことも好きじゃなかったんだ。
だから、彼女たちを不安にさせて、最後には笑顔を奪ってしまったんだ……。
「沖田先輩も何か勘違いしてます」
「え? 」
「私……もう、先輩のことすっごく好きですよ? 」
そう言って照れたように小首を傾げた桃ちゃんが、めちゃくちゃ可愛くて僕まで顔が赤くなってしまった。
あー……もう、心臓の音がドキドキうるさい。
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