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「どうしてうちの部室はこんなに汚いんだ。よしっ、今日は徹底的に片付けるぞっ‼︎ 」
いつもは部室が汚くても全く気にしないというのに、どういうわけか今日は気になってしまったらしい。
そんな気まぐれ屋さんな土方先生と2人で、部室のお掃除をしています。なんなの、この最高なシチュエーション。
先生が気になり過ぎて掃除が全く捗らないんだけどっ‼︎
「おい、美羽。サボってないで真面目にやれ」
床のモップがけをしている土方先生を、ソファに座って眺めていたら怒られた。やだ、怒ってる姿も格好良すぎっ‼︎
もうだめだ、言っちゃえ‼︎
「ねぇ、先生。私、先生のこと好きだよ」
「あ? お前が俺のこと好きなのは前から知ってるよ。
そんなことより、そこの棚のホコリを拭き取ったらお前も床掃除手伝えよ? 」
なにそれ。今、私の告白をさらっと流したよね? 流したよね? 床掃除? そっちの方が、よっぽど「そんなことより」だと思うんだけど‼︎
「そんなことより……って何? 私は本気なのっ‼︎ 本気で先生のことが好きなのっ‼︎ 先生の傍にいたくて士英館受けたんだよ? 」
初めて土方先生に出逢ったのは、もうずっと昔のこと。私はまだ小さな子どもで、土方先生にとってはただの近所のガキくらいだったと思う。
恋愛対象じゃないことくらい分かってた。どんなに好きになっても報われない。
でも、諦めきれなかった。先生のことが好きって気持ちを止められなかった。
「私、もう小さな子どもじゃないよ? そんな風にはぐらかすくらいなら、ちゃんとフってよ。先生のこと大っ嫌いにさせてよ。じゃなきゃ……苦しいよ」
バカみたい。こんな感情的に気持ちを伝えたって、先生は私のことなんて好きになってくれない。やっぱり子どもだなって笑われちゃうだけだ。
堪えていた涙が私の頬を伝って落ちた時——土方先生がソファに座っている私の目の前に跪いた。
「美羽」
小さな頃から数えきれない程、何度も呼ばれた自分の名前。
それなのに、こうして見つめられながら言われると胸がドキドキする。
「俺もお前のことが好きだよ」
「…………本当に? 」
予想をしていなかった言葉に、私は目を瞬かせる。こんな夢みたいなことが起こるなんて……。
「こんな状況で嘘なんてつくわけないだろ。信じてくれないなら、証明してやるよ。好都合なことに、今、お前と俺はこうして2人っきりだ」
え? 先生がソファに手を掛けて私との距離をゆっくりと縮めてくる。先生の顔が近い……。
「あ……」
どうやら、私は先生から離れようと無意識に体を倒していたらしい。
私の背中はぴったりとソファにくっついている。もう、これ以上離れることは出来ない。
「美羽」
私の名前を呼んだ先生が、その細い指で私の顎を持ち上げた。
え? 私、本当に先生とキスしちゃうの? 夢にまで見た先生とのキス……。
先生のことが好きで好きで、この気持ちは止められないって思っていたのに……。
——どうして一樹の顔が浮かぶの?
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