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一樹side
「ありがとうございました‼︎ 」
はぁ……今日はイケるかと思ったのに。やっぱ、まだまだ陸には敵わない。
相手は1年のエースだし? そりゃあ負けるだろうって言われたらそうなんだけどさ。悲しくなるからそういうこと言わないで。本当お願い。
面を取った途端、堪えていたため息が口から溢れた。
ため息をつくと幸せが逃げて行くって聞いたけど、あれって本当なのかな。だとしたら、今、俺の幸せがどこかに飛んで行ったってこと? 最悪じゃん。
「おい、中岡」
後ろから肩を叩かれて振り返ると、坂本先輩と高杉先輩がいた。
「中岡君。最近とても頑張っているね。君の成長には驚かされるよ。これからも頑張ってほしいと思ってる。期待してるよ」
「お前なら岡田を倒すのも夢じゃないぞ。頑張れ‼︎ もっともっと頑張れ‼︎ 満足するな‼︎ 常に上を見ろ‼︎ 分かったか」
高杉先輩に両肩を掴まれて、前後左右に体を揺らされる。
「は、はいっ。分かりました」
揺らされ過ぎてちょっと頭がクラクラするけど……今って、褒められたんだよな? 期待してるって言われたよな?
やった‼︎ 頑張ってきて良かった‼︎ 褒められるってめちゃくちゃ嬉しいじゃん。
それに、頑張りを認めてもらえるって……最高。泣きそうだせ。
しかし、どうしてこんな奇跡的な状況の時に限って美羽がいないんだ。
まぁ、この場にいたからといって、美羽が俺を褒めてくれる訳でもないけどさ……。
あいつは土方先生のことしか見てないからな。別にいいんだけど……。
今頃、土方先生と2人で部室の掃除をしながら、はしゃいでるんだろうな。目に浮かぶぜ。
はぁー……うじうじしてたって仕方ない。稽古頑張って、美羽に格好良いとこ見せられるようにならなきゃな。よしっ。素振りでもするか。
「一樹ーーー‼︎ 」
気合を入れて立ち上がった瞬間。自分の名前を呼ぶ声が聞こえて道場の入り口に視線を向けた。
え? あれって美羽?なにあいつ……めっちゃダッシュしてくるじゃん。
ドンっ‼︎ ぎゅっ‼︎
超特急美羽が俺の胸に飛び込んで来てやっと止まった。
「お前大丈夫? ……どした? 」
つか、俺たちの距離……近過ぎない?
俺、今汗臭いし、あんまり近づいてほしくないんだけど。
いや、嬉しいか嬉しくないかって聞かれたら、間違いなく嬉しいけどさ。
「好き‼︎ 好きなの、一樹のこと」
「………………は? 」
美羽の言葉に思考回路がショートした。え、何言ってるのかな。ちょっと意味分からなかった。うん。
「たった今気づいたの。私なんて、自分で自分の気持ちに気付いてなかったのに、お兄ちゃんが気付かせてくれたの。
やっぱり、お兄ちゃんって凄いよね。私のことなんて少しも見てくれてないんだろうなって思ってたけど、ちゃんと見てくれてたんだよ。
やっぱり、好き。大好き。
あ、でも勘違いしないで。一樹が1番だからっ‼︎ 1番って言っても、他に2番がいるわけでもないからね? 分かってくれる? 」
「あ……うん。分かった」
「良かった。一樹の察しが良いところ大好きっ」
そう言って美羽が俺に抱きつく力を強くした。
あーなんだろう。これ、きっと、めちゃくちゃ最高なシチュエーションだよな。
それなのに、素直に喜べないのは、きっと周りの視線が痛すぎるからだと思うんだ。うん。
「美羽。とりあえずさ、部活終わったら話そうぜ。ここでいつまでもこうしてると、みんなに迷惑かけちゃうじゃん? 」
「あ、そっか。今が部活中だってことすっかり忘れてた。じゃあ、私、掃除に戻るね」
美羽は無邪気に笑うと、スキップしながら部室の方に歩いて行った。
なんだあいつ……。わけわかんねーっ‼︎
「ふーん。中岡君もなかなか隅に置けないね」
「おい、中岡。恋はいいぞ。イチャつくなら存分にイチャつけ。恥じらいなど捨ててしまえ。そうすればお前は確実に強くなれる‼︎ 」
「え? でも、掟は……」
「掟? あぁ、あれか。七瀬 美羽と付き合うことでお前がめちゃくちゃに弱くなったら、その時は口を出させてもらう。それまでは、黙認だ」
そういえば、坂本先輩と高杉先輩も彼女がいるんだっけ。よしっ。俺も、美羽の為に強くなるぞっ‼︎
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