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待ちに待った休み時間。
僕はチャイムの音を合図に勢いよく席を立つ。教科書は、とりあえず出したままでいっか。
「奏士、また彼女のとこに行くの? 」
「あったりまえ」
前の席に座っている綾ちゃんがくるりと振り返ると、呆れたように僕を見つめてくる。
綾ちゃんはずっと彼氏がいないから、僕のことが羨ましいんだと思う。
綾ちゃんの好きな人は、なかなか手強いんだよね。
でも、2人には幸せになってもらいたいから、そろそろきっかけでも作ってあげようかな。
「あ。ごめん、僕急ぐから。じゃあね、綾ちゃん」
綾ちゃんに手を振って教室のドアをくぐる。そして、下の階まで全力ダッシュ‼︎ 桃ちゃん‼︎ 1秒でも早く会いたいよ‼︎
はい、到着。教室の入り口から中を覗くと、桃ちゃんがぴょんぴょん跳ねながら黒板を消している姿が見えた。
え……めちゃくちゃ可愛いんですけど‼︎
そっか、そっか。桃ちゃんは小さいからジャンプしないと黒板の上の方に書かれた文字が消せないんだ……か、可愛すぎるっ。
うさぎみたいに跳ねてる可愛い姿を、もう少し見ていたいけど。休み時間も残り少ないってことで、さっそく話しかけよう。
「桃ちゃ……」
「手伝ってやるよ」
突然現れたその人物は、スマートな仕草で桃ちゃんの手から黒板消しを取り上げた。
え? 誰かって? 岡田だよ、岡田。岡田 陸っ‼︎
「陸っ。大丈夫だよ。黒板くらい1人で消せるから」
「俺が手伝いたいだけだから気にするな。それに、そんなにぴょんぴょん跳ねてたらまた転ぶだろ」
「さすがに黒板消しながらは転ばないよ」
「どうかな。お前はすぐ転んで怪我をするから心配なんだよ」
「陸は心配し過ぎなのっ。いつも言ってるでしょ? 私、意外と運動神経いいんだよ? 」
「はいはい。そういうことにしといてやるよ」
岡田は桃ちゃんを軽くあしらうと、黒板の文字を手際よく消していく。
なにアイツ。今日は取り巻きの女の子たちと
一緒じゃないんだ。それに、何かいつもと雰囲気が違う気がするんだけど……。気のせい?
桃ちゃんも岡田も凄く楽しそう……。
「沖田先輩? こんなところで何してるんですか? 」
背後から聞こえた声に振り向くと、美羽ちゃんと中岡くんが不思議そうな顔をして僕を見ている。
手なんかつないで相変わらずラブラブだね。羨ましいよ。
「……僕、教室戻るね」
「え? 桃に会っていかないんですか? 」
「うん。僕、邪魔みたいだし……」
「え、邪魔? 」
きょとんとしている2人に手を振って背を向ける。
あー、もやもやする。何これ? 胃もたれ? 風邪でもひいた?
もうやだ。もうやだ。
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