恋する士英館高校

50/89

52人が本棚に入れています
本棚に追加
/92ページ
「ねぇ、いつまで待たせるわけ? 彼女、待ってるよ」 「そんなの分かってるよ。そもそも、綾ちゃんが、長々と1人で喋ってたんじゃん。 あんまり小煩(うるさ)いと、あの人に嫌われちゃうよ? あ、でも、あの人は気が強い女が好きって言ってたなぁ」 「奏士。あんた今わざと地雷踏んだでしょ」 「何のこと? 綾ちゃんもたまには部活に出たらいいのに。じゃあね」 殺気立ってる綾ちゃんはとりあえず気にしないことにして、僕はいつも通りを装って、さりげなく桃ちゃんに声を掛けた。 「桃ちゃん、どうしたの? 2年の教室に来るなんて始めてだよね」 「あ、いきなり来てごめんなさい。迷惑かなって思ったんですけど……。先輩が元気ないみたいだって土方先生に聞いて、それで心配になったんです。 休み時間も教室に来てくれなかったので、また体調が悪いのかな?って。大丈夫ですか? 」 岡田 陸と楽しそうに話していたから、僕のことなんて少しも気にしていないのかと思っていたのに……心配して教室まで来てくれるなんて嬉しすぎる。 「桃ちゃん。心配かけてごめんね。でも、僕はもう大丈夫だよ」 「本当ですか? 無理してないですか? 」 「大丈夫。桃ちゃんがこうして僕のところに来てくれたから元気になったよ」 この言葉は本当。自分がこんなにも単純だったなんて今まで知らなかったよ。 「じゃ、そろそろ部活行こっか。遅れたら土方先生に怒られちゃうし。僕、カバン取ってくるからちょっと待ってて」 「あ、先輩っ」 ん? 桃ちゃんが僕のブレザーの袖をぎゅっと握ってる。 「どうかした? 」 「あの……先輩にお願いがあるんです。聞いてもらえますか? 」 「お願い? うん。僕に出来ることならもちろんなんでも聞くよ。どんなこと? 」 僕を見上げていた桃ちゃんが、何か言葉を紡ごうとして「やっぱりいいです」と言って目を逸らした。 何か話しにくいことなのかな。僕は少しだけ屈んで桃ちゃんの口元に耳を近づける。 「これなら僕にしか聞こえないよ。だから大丈夫」 「あの……みんなでいるときは恥ずかしいので無理なんですけど……2人でいるときは先輩のこと下の名前で呼んでもいいですか? 」 下の名前? 奏士ってこと? そういえば、いつも苗字で呼ばれてるから、下の名前で呼ばれるのって新鮮かもしれない。 「もちろん‼︎ どんどん呼んでよ」 僕は嬉しさのあまり桃ちゃんを抱きしめた。 「先輩っ。あ、あのっ。沢山の人達に見られてますっ」 「そんなの気にしない、気にしない」 人の目? そんなの関係ないさ。桃ちゃんが可愛いときは迷わず抱きしめる。それが僕のポリシーだから。
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加