恋する士英館高校

53/89
前へ
/92ページ
次へ
部員が部室に戻ってからも、マネージャーにはまだ片付けという雑用が残っている。 部員の数に対してマネージャーがたった2人という現実。さすがに全てのことを私と美羽ちゃんだけでこなすのは難しい。 ということで、部員が交代でお手伝いをしてくれるのだけれど——今日は、運悪く陸の番だった。 「何かあったのか? 」 私の手伝いをしながら、陸が心配そうに声を掛けてくれる。絶対にバレていると思った。 だから、聞かれたら笑顔で誤魔化さなきゃって思ってた。 それなのに、私はシミュレーション通りに上手く笑うことが出来なかったみたいだ。 「何もないよ。どうして? 」 「桃が嘘をついても、顔に書いてあるからバレバレだ。俺には分かる」 何を根拠にそんな自信満々に言い切るのか分からない。 顔に書いてある? そんな訳ないじゃない。変な言いがかりはやめてほしいよね。 まぁ。実際、何もないと言ったのは嘘なのだけれど……。本当のことを見透かされると誤魔化したくなるのは私だけかな。 「嘘なんてついてません。陸の勘違いです。お手伝いありがとうございました」 片付いた道場を見渡して、手早く手荷物をまとめ陸に頭を下げる。 「さ、帰ろう、陸」 一刻も早くこの場から立ち去りたかった。 陸と2人でいると、ついつい弱音を吐いてしまいそうになる。そんなの許されないことだ。 だって、私は「あの人」に嫉妬しているんだから。 異性の友達にヤキモチを焼くなんて変だって分かってるけど、このモヤモヤを抑える方法が分からない。 だから、私も異性の友達には相談しない。 陸には……言わない。
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加