恋する士英館高校

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「桃が困ってたら助けるって約束しただろ? 何か困ってることがあるなら頼れよ」 「だから、何も困ってないってば。どうしてそうやって、何かあったって決めつけるの? 」 「お前のことはいつも見てる。だから、沖田先輩と何かあったことなんてすぐに分かった」 陸は確かにそう言ってた。私のことを見てるって。あの時は嬉しかったけど、今はちっとも嬉しくないよ。 何でもお見通しの陸を、誤魔化すことなんて出来ないじゃない……。 私は陸に背を向けて足早に歩く。 「じゃあ、聞いてくれる? でも、たいしたことじゃないの……。 今日、綺麗な先輩が部活を見学してたでしょ? あの人、沖田先輩と凄く仲がいいみたいで……。 すごく自然に沖田先輩のことを呼び捨てにしてたの。 私は別に、沖田先輩を呼び捨てにしたいってわけじゃないけど……ちょっとだけ、羨ましいなって思って」 「つまりは嫉妬したってことか」 陸の問い掛けに小さく頷く。 「ヤキモチやくなんて嫌な子だよね。異性の友達にヤキモチやいてるのに、自分はこうして陸に弱音吐いてる。本当、私って嫌なヤツ」 沖田先輩は私の彼氏だけど、私の所有物じゃない。私が思う通りに行動を制限するなんておかしな話だと思う。 相手が同性でも異性でも、お友達はお友達だもん。いちいちヤキモチやくなんて、やっぱり変だよ。 「桃は嫌なヤツなんかじゃない。 ヤキモチをやくのは沖田先輩のことが好きだからだし、気安く呼び捨てに出来ないのは特別だからだろ。 その証拠に俺のことは簡単に呼び捨てにしてるじゃないか」 「陸は特別だよ。私が呼び捨てに出来る男友達は陸だけだもん」 ついついムキになって大きな声を出してしまった私を見て、陸が目を瞬かせる。そして、次の瞬間、吹き出すように笑った。 「そんなに大声出さなくてもちゃんと聞こえてる」 「だよね。ごめん。なんか恥ずかしいな……」 「俺もお前のことは特別だって思ってる。大きな声では言わないけど」 行くぞ。と言って、今度は陸が私の前を歩いて行く。 その背中を小走りで追いながら、沖田先輩とあの先輩も、私と陸みたいに仲良しなのかもしれないなって思った。 そしたら、モヤモヤと曇っていた気持ちがすーっと晴れていくような気がした。 最初はどうしようって思ったけど……やっぱり陸に話してみて良かった。陸って私よりも断然オトナって感じがする。
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