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部室の前に着いた時。急に立ち止まった陸の動きに反応しきれなかった私は、そのまま陸の背中にぶつかってしまった。
「っ、いた。ごめんね、陸。ん? 」
返事をしない陸を不思議に思い、私は陸の顔を後ろから覗き込む。
陸はただ黙って何かを見ていた。
「陸、何見てるの? 」
視線を辿った先——沖田先輩とあの人がいた。
部室を通り過ぎた所にある、校舎と部室を繋ぐ連絡通路。2人はそこで向かい合って立っている。
沖田先輩……あんなところで何してるんだろう。そんなことを考えながら、陸の後ろから2人の様子を伺う。
なんとなく、神妙な雰囲気? 何を話してるんだろう。
いやいや、盗み聞きなんて趣味悪いっ。気にしない、気にしない。
激しめに首を横に振った時——ふと話し声が耳に届いた。
「こんなところ見られたらどうするの? 」
「別に大丈夫だよ。本当は会いたかったんでしょ? 素直になりなよ」
「そうだけど……彼女に悪いじゃん」
「今いないから大丈夫だよ。ほら、早くおいでよ」
「ちょっと、待って。心の準備が……」
沖田先輩が彼女の手を握り、ぐいと体を引き寄せた。あの人の頬はピンク色に染まっている。
私……知ってるよ。頬がピンク色に染まるのは恋をしてる女の子の証なんだって……。
あの人の手を引いた沖田先輩がこちらを振り向いた。私は逃げることも、目を背けることも出来ないまま2人を見つめていた。
「あ、桃ちゃん。片付け終わったの? 」
沖田先輩の言葉に、あの人が慌てたように手を振りほどくと、さっきまで繋がれていた手を背中の後ろに隠した。
「2人ともお疲れ様」
何事もなかったみたいに笑っている2人に、私は咄嗟にぺこりと頭を下げた。
「あ、はい。お疲れ様です」
頭を上げた瞬間——沖田先輩とあの人が、視線だけで何か言葉を交わしたのが見えた。
沖田先輩のさっきの言葉が頭の中をグルグルと回っている。
これは、どういうこと? 分からない。分からないのに……どうしよう、泣きそうだ。
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