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さっきまでのニヤリ笑いはどこに行ったのか。先輩の顔は透き通るように青白い。
「……どうして知ってるの? 」
「ってことは認めるんですね。何となくカマかけただけですよ。
見てたら分かっちゃったんです。あー、あの人と何かあったんだなって」
「信じらんない……君って怖い子だね」
「ありがとうございます。俺は自分の目的を果たす為なら手段は選ばないので」
俺達のただならぬ雰囲気に、ファンの子達がそそくさと手荷物をまとめ始める。
彼女達は嫉妬深いけど、凄く物分かりが良い。俺が何も言わなくても察してくれる。優しい子達なんだ。
「私達そろそろ行くね」
「放課後また部活の見学行くから頑張ってね」
「じゃあね、陸君。先輩も失礼します」
彼女達の後ろ姿を見つめながら、先輩は盛大にため息をついた。
「私ってそんなに分かりやすいかな……」
「分かりやすいですよ。先輩もあの人も。だから、沖田先輩をカモフラージュにしてるのは正解だと思います。
だけど、桃はこういうことにすぐ気付けるようなヤツじゃないんです。俺と違って凄く純粋だから……。
沖田先輩にはそこのところをもう少し理解してもらわなきゃ困ります」
「なるほどね。だから1週間も桃ちゃんと距離を置かせたってことか。充分に反省させる期間を設けた……。
君さ、桃ちゃんのこと大好きじゃん。それなのにどうして? 」
どうして? そんなの決まってる。桃のことを失いたくないから。
「俺は桃の全てを独り占めしたいんです。本当は籠の中にでも閉じ込めておきたいくらい……。
でも、そんなことは出来ない。だから、桃の特別でいることを選んだ。
彼氏なんて存在は、いくらでも代わりがいるじゃないですか。そんな訳で俺はそのポジションに興味はないんです。
俺は、桃が困った時、傷ついた時、1番に駆けつけて寄り添ってあげたい。
桃が誰かに頼りたくなった時、すぐに頭に思い浮かぶのが俺であればいいんです。
普段は俺の存在なんて忘れていたって構わない。でも、桃が泣くのは俺の胸なんです。そう決まってる」
先輩が理解出来ないとでも言うように首を横に振った。
「無償の愛……いや違うな。なんか歪んでるね、君の愛は」
自分でもそう思う。だけど、それでも良いんだ。泣いている桃が笑顔になれるまで、俺はいくらでも彼女をこの腕に抱きしめる。
その後、他の誰かのところに駆けていく背中を見送ることになったとしても構わないんだ。
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