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奏士side
桃ちゃんと一緒に帰るのは、実に1週間ぶりのことだ。緊張するなって言う方が無理だよね。
あの日以来。休み時間の度に、桃ちゃんの教室に顔を出した。でも、結局桃ちゃんには会えなかった。
どうしてかって? 怖い顔をした美羽ちゃんが、教室のドアを占拠してたから。
「桃を泣かせるような人には会わせられません」
毎日、美羽ちゃんはそれだけを言うと、教室のドアをピシャリと閉めてしまうんだ。僕にはどうすることも出来なかった。
「桃ちゃんに謝りたいんだ。だけど、会わせてもらえない……」
「部活の時は? 嫌でも顔合わせてるでしょ」
僕の前の席では綾ちゃんが細長い形状をしたチョコのお菓子を食べている。
ねぇ、今、授業中だよ? そんなもの食べてていいの? さっきから机に突っ伏してる僕が言うのも何だけどさ。
「部活中は個人の問題を持ち込みたくないんだよ」
「はぁ? どうして、そんなとこばっかり真面目なのよ。そんなに真面目なら授業ちゃんと受けなさいよね」
僕の机にお菓子の箱を叩きつけると、綾ちゃんはくるりと黒板に向き直った。これは、怒ってるわけじゃなくて「いつまでもウジウジと凹んでんじゃないわよ」っていう励ましなんだ。この人、本当に不器用でしょ?
「分かった。奏士にはいつもお世話になってるからね。今回は私が話をつけてくるよ」
昼休み。綾ちゃんはそう言って教室を出て行った。
もう1週間だ。桃ちゃんがどうして泣いていたのか、理由すら分からない僕は……もう、桃ちゃんの彼氏でいる資格なんて無いんだと思っていた。
部活で顔を合わせる度、胸の奥が痛くて、苦しくて、遣る瀬無い気持ちになった。
でも、僕に出来ることは、心の中で桃ちゃんに謝ることだけだったんだ。
「先輩には分からないですよね」
急に立ち止まった桃ちゃんが悲しげに呟いた。僕は桃ちゃんと距離を置いて向き直る。こんな鈍感な僕でも、あれは少し傷ついたんだ。まさか、手を振り払われるなんて思っていなかったから……。もう傷つきたくない。そんな考えから、桃ちゃんに近づくのを躊躇っている自分がいた。
「1週間凄く凄く考えた。でも、桃ちゃんを泣かせてしまった理由は分からなかった。ごめん……」
きっと、別れましょうって言われるんだろう。桃ちゃんは僕に愛想をつかせたに違いない。僕は覚悟をして強く掌を握りしめた。
「謝るのは私の方です。本当にごめんなさい……。沖田先輩と井上先輩が凄く仲良さそうだったので……ヤキモチを焼いてしまいました。
沖田先輩は井上先輩のことが好きなんだって勘違いして……勝手に混乱して、泣いたりして……本当にごめんなさい」
桃ちゃんは深々と頭を下げている。その姿を眺めながら、僕はこんなこと間違ってると思った。
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