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屋上のいつもの場所に向かうと、坂本先輩と高杉先輩がお弁当を広げて待っていた。
「今日は遅かったな。お? 珍しい奴がいるな」
「本当だね。誰かと思ったら井上さんじゃないか」
綾先輩の姿を見つけた坂本先輩と高杉先輩が目を瞬かせている。
「え~? 先輩たちも一緒なの~? ま、たまにはいっか。お邪魔しまーすっ」
綾先輩は致し方なくといった感じで高杉先輩の隣に座ると、お弁当の入ったバッグをテーブルの上に置いた。
「なんだ、俺様が隣だと不満なのか」
「めっちゃ不満‼︎ だって、高杉先輩って暑苦しいんだもん」
「俺様のとこが暑苦しいんだ。相変わらず失礼な奴だな、井上 綾奈」
これは心外だと眉をひそめている高杉先輩に、綾先輩が「全体的に暑苦しいよ」と言って満面の笑みを浮かべたのを見て、坂本先輩が何度も頷く。
「それは否定出来ないね。確かに郁人は暑苦しいところがある。でも、それは決して短所という訳ではないんだ。
例えば、郁人が居てくれるだけで場の空気が明るくなるだろう? これは素晴らしいことだと俺は思うんだ」
「おぉ、龍世。お前は相変わらず良いことを言うな」
「俺は良いことを言ったつもりはないよ。本心を言ったまでさ」
坂本先輩の言葉に高杉先輩がキラリと瞳を輝かせ、2人はついに熱い抱擁を交わし変わらぬ友情を確かめ合っている。
「前言撤回‼︎ 暑苦しいのは高杉先輩だけじゃなくて坂本先輩もだった。しばらく会わないうちに忘れてた」
綾先輩は「あーいやだ、いやだ」と言いながら肩を竦ませている。
そんな息の合った賑やかな会話のやり取りを聞きながら、私の頭の中にはある疑問が浮かんでいた。
——もしかして、この3人って知り合い……?
きょとんとしている私に気づいた沖田先輩が、お弁当箱のフタを開けてくれながら簡潔に説明してくれる。
「そっか。桃ちゃんは知らないよね。実は綾ちゃんも剣道部のマネージャーなんだよ」
「え? そうなんですか? 」
「そう。訳あってずっとサボってるんだよね。あ、ねぇ。玉子焼きちょうだい♡ すっごく美味しそう♡ 」
私のお弁当箱を覗き込みながら、綾先輩が玉子焼きを指差している。
美羽ちゃんと綾先輩はどことなく雰囲気が似ている。2人とも背が高くて痩せ型でモデルさんみたいな体型なところ。
後は、見た目がクールビューティなのに、実は内面が無邪気な子どもみたいなところ。
「あ、はい。どうぞ」
「桃ちゃんは本当にいい子だね~♡ 」
綾先輩が向かい側の席から伸ばした左手は、私の頭に触れることはなかった。
どうしてかって? 綾先輩の手を沖田先輩が瞬時に掴んだから。
「ちょっと、何? 」
「今、桃ちゃんに触ろうとしたでしょ? むやみやたらに触るのやめてよね」
「は? いいじゃん別に‼︎ 桃ちゃんが良い子だから頭を撫でてあげようと思っただけだよ」
「それがダメだって言ってるんだよ‼︎ 」
「はぁ? あんたにそんな権限ないからっ‼︎ 」
あぁ……また始まっちゃった……。
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