恋する士英館高校

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ドンッ。 不意に、衝撃を受けた私は体勢を崩して思わず廊下に座り込んだ。 「痛た……」 美羽ちゃんのことばかり見ていて、前を見ていなかった……。失敗、失敗。 「あの、ご……ごめんなさいっ」 「大丈夫? 」 頭上から聞こえた優しい声に、ゆっくりと顔を上げる。あ、この人。美羽ちゃんの隣の席の人だ。 確か名前は、中岡(なかおか) 一樹(いつき)くん。 「あ、うん。大丈夫。ありがとう」 中岡君は私の腕を掴むと、その場に立たせてくれた。私は感謝の気持ちを込めて、ぺこりと頭を下げる。 「一樹ってば優しい~。なになに、早速モテようとしてるわけ? 」 「はぁ? そんなんじゃねぇって」 美羽ちゃんにからかわれた中岡君が照れた様に顔を背けた。なんだろう。中岡君から優しさが溢れ出してる気がする。 「こんなの普通のことだろ。というか、ぶつかったの(りく)だろ? 早く謝れって」 中岡君の言葉に視線を動かすと、隣の席の怖い人———岡田君とばっちり目が合った。 「……悪かった」 彼はそれだけ言うと、私たちに背を向け、足早に廊下を歩いて行ってしまった。 こ……怖いっ。やっぱり、怖いっ。 あんな怖い人にぶつかってしまうなんて、私のバカバカっ。中岡くんがいなかったら、絶対に怒られてたよね……。 「えっと……。なんかごめんね。陸って悪い奴じゃないんだけど、ちょっと無愛想なんだ。あぁ見えて極度の人見知りだしね」 まるで自分のことのように申し訳なさそうに頭を掻いている中岡君に、私まで居た堪れない気持ちになってしまう。 「そうなんだね。全然大丈夫。気にしてないから」 悪い人じゃないのは、なんとなくだけど分かる。さっきも、私の体調を心配してくれたし……。 自己紹介の時に、岡田(おかだ) (りく)です。って名前だけしか言わなかったのも、人見知りだからなのかもしれない。 だとしたら、私も同じだ。 緊張してガチガチになったら、気付かないうちに怒ってる顔になっちゃうんだよね。 岡田君は、見た目はちょっと怖いけど……。性格はそんなことないのかもしれない。
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