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「……先生、離して」
私の声は、思っていたよりも小さかった。少しだけ掠れてしまったその声に、抱きしめられている腕の強さが少しだけ増した。
「綾……。お前は、もう俺のこと嫌いになったのか?」
それは、いつもの先生からは想像できないくらいに頼りない言葉。私は無意識に両手を握りしめていた。
はぁ? 先生は自分が何を言ってるか分かってるの?
信じられない。信じられない。
——私の気持ちを受け入れられないって言ったのはそっちでしょ?
私は先生の腕を掴んで無理やり体を引き離す。
「先生なんて嫌いだよ。大っ嫌い」
そう言いながら振り返った先——先生はただただ真っ直ぐに私を見つめていた。
なんで? なんでそんな顔するの? そんな切なそうな顔で見ないでよ。
「先生は勝手すぎるよ。私が……どれだけ苦しんだと思う? 今更なんなの? 嫌い……先生なんて嫌いだよ」
私は先生に背を向け、勢いよくドアを開けて部室を飛び出した。
込み上げてくる涙は止まることなく流れ落ちて、私の頬を濡らしていく。
先生にフラれたあの日から、毎日毎日、先生を忘れることだけを考えてきた。
それなのに、あんな顔見せられたら……俺のこと嫌いになったのか? なんて言われたら……もしかしたらって期待しちゃうじゃん。
もう、やだ。今日は本当に人生で最悪な日だ……。
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