恋する士英館高校

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土方side 「先生? 先生‼︎ 」 不意に聞こえたその声に、はっと我に返る。 「先生……大丈夫ですか? 」 視線を横に向けると、隣に座っている桃と目が合った。心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。 「あぁ、大丈夫だ。心配いらない」 そう言って頭を撫でてやると、桃は少し笑って頷いた。 「それなら良かったです。でも、先生……今日は元気ないですね。何かあったんですか? 」 桃のその言葉に思わず頭を抱える。 俺としたことが傍目にもわかる位落ち込んでるとは……。教師失格だな。 「悪いな。生徒のお前に気を遣わせて……」 「そんな。先生が謝る必要なんてないです。 先生だって1人の人間ですから、嫌なことがあってイライラしたり、悲しいことがあって落ち込んだりするのは当たり前だと思います」 「そう言ってもらえると有り難いな」 「だから、何か困ったことがあればいつでも言って下さいね。私に出来ることはあまり無いかもしれないですけど……先生の力になりたいです」 桃は背が小さいせいで、高校生になった今でも、ついつい子ども扱いしてしまう。 ふわふわした雰囲気も相まって、何をするにも心配で目が離せない。 転んで怪我をすることも人生の1つの経験だ。そう分かっていても、桃が転ぶ前に手を差し伸べてやりたくなる。 俺にとっては、初めて出逢ったあの日から変わらず——いつまでも小さくて可愛い妹みたいな奴だ。 それなのに、俺の力になりたい。なんて言いやがる。 嬉しくない訳ではないが、どことなく寂しさの方が上を行く。 「ありがとうな。その気持ちだけで充分だ」 「あ……もしかして、私なんて頼りにならないって思ってますね? 」 しょんぼりと肩を落とした桃の姿があまりにも可愛らしくて、ついつい頬が緩む。 「そうじゃねぇよ。可愛い妹の前では、いつでも格好いい兄貴でいたいんだよ」 本当は、好きな女に自分の気持ちも伝えられない。好きな女の気持ちを受け止めることも出来ない。そんな情けない男なんだけどな。 「先生なんて大っ嫌い」 綾の言葉が頭から離れない。何度も何度も頭の中でリピートされる度、俺は自嘲気味に笑うんだ。 ——自業自得。その言葉に尽きる。 本当は俺もお前のことが好きだった——なんて今更伝えたところで困らせるだけなのは分かっていた。 綾が俺と距離を置いて、何もなかったように過ごしていることも知っていた。 俺はそれを心の底から望んでいたし、それが綾にとって1番良い選択なのだと信じていた。
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