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廊下にはチャイムの音が響き渡っている。早く教室に戻らなきゃ。そう思いながらも、私は先生の後ろ姿をずっと見ている。
まだ胸がチクチク痛い。でも、どうしてかな。不思議と嫌な痛みじゃないんだ。
卒業式まであと何日‼︎ って書いた日めくりカレンダーを作らなきゃ。
そんなことを考えて、1人でほくそ笑んだ時——思い出したように振り向いた先生が「今日は部活サボるなよ」と言って、片手を挙げた。
なにあれ。めちゃくちゃ格好いい♡
「はーい。先生」
両手を激しく振ったら、呆れ顔で小さく手を振り返してくれた。
え、幸せ♡ すっごく幸せ♡
身体中を巡っているこの幸せパワーを一体どこに放出すればいいんだろう。
今ならドカーンと花火を打ち上げられそう。はぁ、なんて歯痒いんだ。ちくしょう。
「あ、綾ちゃん‼︎ ねぇ、どーだった? 」
教室のドアを開けた瞬間、奏士が心配そうに声を掛けてきた。
ごめんね、そんな顔させて。
ごめんね、いつも心配掛けて。
気遣ってくれてありがとう。本当、あんたっていい奴だね。
私はここ最近で1番の笑顔を浮かべて、両手で頭の上に大きな丸を作る。
「え、本当? 嘘じゃない? 」
「嘘じゃないよ。まぁ、別に今までと何かが変わった訳じゃないんだけどね……言いたいことは言えたし。次の目標も出来たし。
うじうじするのはやめて、前だけを向くことにしたの。
過去は変えられないけど、未来は自分次第で変えられるでしょ?
私、頑張るよ。でも、たまに弱音吐いちゃうかも。その時は励まして」
私の言葉に、奏士が力強く頷いた。
「もちろん‼︎ 全力で励ますよ。僕、綾ちゃんのこと応援するからね」
「うん。ありがとう」
持つべきものはサボりグセのある男友達と、鋭い洞察力を持った後輩——ってことかな。
なんてね。
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