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桃side
夏の大会を間近に控えた今日——私と美羽ちゃんは、いつもの神社に訪れています。
「今年も士英館高校剣道部が優勝できますように‼︎ よしっ、これで大丈夫かな」
美羽ちゃんが書きあがったばかりの絵馬を見せながら「どうかな」と首を傾げている。
「大丈夫だと思う。縁結びの願かけじゃないけど……神様は優しいから、きっとお願いを聞いてくれるんじゃないかな」
「だよね。神様にお願いしたし、後は部員のみんなの努力次第ってことだね。
一樹も1勝くらい出来たらいいなぁ。あー、もう今から心配」
絵馬を掛けながら美羽ちゃんが盛大に息を吐いている。
少しだけ肩を落とした美羽ちゃんは、なんだかいつもより小さく見える。
今まではカッコイイ系女子だったのに、一樹君に恋をしている美羽ちゃんはどちらかというと真逆だ。
か弱くて、儚くて、守ってあげたくなる。そんな雰囲気。
恋をするって不思議だよね。
「やっぱり、一樹のことも書いておこう」
もう1度ペンを握った美羽ちゃんが書いた言葉は、一樹がせめて1勝出来ますように‼︎ だった。
「一樹君ならもっと勝てるよ」
「そんなの無理だって。今だに、岡田にすら1勝も出来ないんだよ?
きっとズタボロになって帰ってくる……なんて励ませばいいかな。
あ、そうだ。今から何パターンも考えておかなきゃ」
なんだか違う方向に闘志を燃やしている美羽ちゃんに、思わず笑みが溢れる。
一樹君のことになると一生懸命な美羽ちゃん、すっごく可愛い♡
でも、何パターンもの励ましの言葉はきっと無駄になっちゃうと思うんだ。
最近の一樹君は美羽ちゃんが心配してくれていることを誰よりも感じてるから、稽古もめちゃくちゃ頑張ってる。
美羽ちゃんには内緒で、朝と夜にランニングしてるんだってこっそり教えてくれた。その努力は絶対に報われるはず。
それに、土方先生だけじゃない——坂本先輩も高杉先輩も一樹君に期待してるって言ってた。
私は、一樹君がズタボロになんてならないと思う。
きっと、美羽ちゃんが惚れ直しちゃうくらい、格好いい試合をしてくれるって信じてる。
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