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「桃はいいな。こーゆー心配とは縁遠いもんね」
「こーゆー心配? 」
境内に置いてある古びた木のベンチに、美羽ちゃんと並んで腰掛ける。
木の葉の隙間からチラチラと差している光の粒が、美羽ちゃんの書いた絵馬を照らしている。
「沖田先輩は部活でも試合でも負け無しだもん。安心して見ていられるじゃない」
確かに、沖田先輩が誰かに負けるなんて想像も出来ないし——そんなこと、考えたこともなかった。
沖田先輩はふわふわしている様に見えるけど、実は真っ直ぐに芯が通っている人。
負けたくない。って気持ちはきっと誰よりも強いんだと思う。
坂本先輩や高杉先輩が卒業した後は、自分がこの部を引っ張って行かなきゃいけない。
だからこそ、誰よりも強くなければいけない。
その想いが強すぎて、身動き出来なくなっちゃうんじゃないかなって、たまに心配になるけど……。
沖田先輩はいつだって「桃ちゃんが傍にいてくれれば、僕はどんなツライことも乗り越えられるんだ」って笑うんだ。
だから、私はどんな時も沖田先輩の傍にいる。
それだけで、力になるって言ってくれる沖田先輩の言葉を信じてるんだ。
「うん。沖田先輩はきっと負けないと思う」
試合にも、自分にも……。
だって、沖田先輩は強い人だから。
「沖田先輩に勝てるとしたら、やっぱり岡田だよね」
「え、陸? 」
「なんか、あの2人って似てるよね。すっごくストイックなところとか、負けず嫌いなところとか、剣道部は俺が守る‼︎ みたいな心意気とか」
確かに、言われてみると似てるの、かも?
見た目は全然真逆で——癒やし系イケメンと、オラオラ系イケメン。そんな感じ。
沖田先輩は普段はふわふわ、竹刀を持つと凄腕剣士。
陸は見た目がちょい悪、中身は優男。
そんな2人にギャップ萌えだよ。
「あ、岡田といえばさ。最近、やたらと綾先輩と一緒にいるよね。
一樹があの2人は絶対に付き合ってるって言うんだけど、私もそう思うんだ。
あの距離感は付き合ってなかったら無理だよ、無理。
まったく、桃という最愛の女がいながら浮気するなんて岡田許すまじ‼︎ 」
え? ちょっと待って美羽ちゃん。ツッコミどころが満載すぎて笑っちゃうよ。
「私は陸の最愛の女なんかじゃないよ」
私の言葉に、美羽ちゃんが盛大に息を吐いて「そう思ってるのは桃だけだからね」と言った。
そんなことないよ。他の誰にもそんなこと言われたことないもん。絶対に美羽ちゃんの勘違いだよ。
「で? 本当のところはどうなの? 」
「え? 」
「沖田先輩、綾先輩と仲良いじゃない。何か聞いてないの? 」
興味津々な美羽ちゃんの眼差しに、私の鼓動が一気に速さを増していく。
いつかは聞かれるって思ってた。だから、心の準備はしてたけど……やっぱり緊張する。
美羽ちゃんには気付かれないように小さく深呼吸をしてから、恐る恐る言葉を紡ぐ。
「あ、えっと……うん。つ、付き合ってるみたいだよ。陸と綾先輩」
「やっぱりね。私と一樹の目は誤魔化せないよって話だね」
勝ち誇った顔をしている美羽ちゃんは、私のたどたどしい返事を少しも怪しんでいる様子はない。
大丈夫だったかな。信じてくれたかな?
大好きな美羽ちゃんに嘘をつくのはすっごくすっごく心苦しいけど……綾先輩と土方先生の恋を守る為だから許してね、美羽ちゃん。
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