恋する士英館高校

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「棚の高い所は俺がやるから、桃は下の方を頼む」 「うん、分かった」 今週は美化週間。 各クラスに割り当てられた教室を、その日の日直が放課後残ってお掃除をしていくという、なんとも不公平な制度。 今週、日直に当たらない人たちは大喜び。相反するように、日直に当たる人たちは「そんなのずるいじゃないか」と声高らかに訴えた。 確かにちょっとずるい気もするけど、決まったことは仕方ないよね。 そんな訳で、今日の日直である私と陸がこの資料室の担当ですっ。 ——世の中って時に不公平だよね。うんうん。 私は、陸の指示通り、棚の下の方を黙々と片付けていく。 早く終わらせないと、陸がいつまでたっても部活に行けないもんね。 無造作に積み上げられた書類ファイルを取り出して、棚を拭いて、番号順に並べ替える。 うん。綺麗になるって素晴らしい。 「随分と真剣だな」 不意に頭上から降ってきた声に視線をあげると、脚立にまたがっている陸と目が合った。 「うん、めちゃくちゃ真剣。早く終わらせたいんだもん」 「早く沖田先輩のところに行きたいってやつ? 」 そう言ってクスリと笑った陸に、私は首を横に振った。 「違うよ。私がモタモタしてたら、いつまでたっても陸が稽古できないでしょ? だから真剣にやってるの」 陸は何でも器用にこなすから、きっと片付けもあっという間に終わらせちゃう。 自分が先に終わったら「手伝うよ」って絶対言うはずだから——陸に迷惑かけないようにテキパキやらなきゃね。
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