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それにしても——教室内を見渡すと、否応無しにため息が出る。
この棚が終わったら隣の棚。隣の棚が終わったら後ろの棚。そして、その隣の棚……え、終わる気がしない。
道のりはまだまだ長いみたい。
「なぁ、桃」
「ん? 」
「俺との約束守ってくれたんだな」
「約束って……もしかして綾先輩のこと? 」
「あぁ。一樹と七瀬に、2人は絶対付き合ってると思ってた‼︎ って、なんかすげー自慢気に言われた」
脚立から降りてきた陸が「あいつら本当に面白いよな」と言って笑い声を上げている。
その横顔を見つめながら、初めて陸が笑った日のことを思い出していた。
私の両膝に貼られた絆創膏を見て、何がおかしいのかずっと笑ってたんだよね。
ちょっと前のことなのに、もうずっと昔のことみたいな気がする。なんでだろう。
「桃、大丈夫か? 」
「あ、うん。ごめん、ぼーっとしてた。よしっ。次の棚いきまーす」
「俺も。あ、脚立邪魔だよな。ちょっと動かすから待ってろ」
「ありがとう」
書類ファイルを取り出して、棚を拭いて、また戻すだけの単調な作業。
だけど、陸と一緒だから少しも退屈じゃない。
これが、陸以外の男子だったらって考えたら、怖すぎて無理。はぁ、想像するだけでドキドキしてきた。
2日前に席替えをしてくれた土方先生に感謝しなきゃ。
怖いといえば……。
「そういえば、いつも陸と一緒にいる子達って雰囲気変わったよね」
「そうか? 」
「うん。前はちょっと怖いなって感じてたけど、最近はそんなことなくなった。
むしろ、すっごく優しいの。挨拶もしてくれるし、この間はお菓子もくれたんだよ」
「それは、お前が沖田先輩の彼女になったからだよ。おかげで、前みたいに話せるようになった。なんか皮肉だな」
「え? 」
「なんでもない。ちょっと休憩するか。だらだらやっても作業効率悪いし」
資料室の中央に置かれた長テーブルに陸と並んで座る。
グラウンドに面した窓からは、野球部が練習をしている姿が見える。
剣道部も今頃、頑張ってるかな。
「桃ってさ、昔から土方先生と付き合いあるんだよな」
「うん。家が近所なんだ。だから、小さい頃からよく遊んでもらってたの」
「それなのに、先生に好きな人がいることに気づいてなかったのか? 」
うっ……痛いところを突かれた。
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