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「もうっ。桃遅いよー」
「美羽ちゃん、ごめんねっ」
外靴に履き替え終わった美羽ちゃんが、靴箱の前で仁王立ちしている。私は慌てて謝った。
「謝らなくて大丈夫。どうせ、一樹がくだらないこと話してたんでしょ? 」
「くだらないというか……土方先生には敵わないなぁって言ってた、かな」
「そんなの当たり前じゃんね。何言ってんだか。一樹のことは置いといて、いざ出陣っ」
急いで靴を履き替えて玄関の扉をくぐると、正門までの道は沢山の人で溢れ返っていた。
土方先生が言っていた通り、先輩たちが新入生に向けて部活の勧誘をしているらしい。
賑やかな雰囲気と忙しなく飛び交う声に、思わず立ちすくむ。人見知りにはハードル高いですっ。
「す……凄いね」
「うん。へぇー、色々な部活があるんだね。でもでも、私たちが向かう先は1つだよ」
雰囲気にのまれて硬直している私の手を掴むと、美羽ちゃんが目的の場所へと地面を蹴った。
「さっき上から見たときはあの辺だったんだよね。もうちょっと先かな。あっ、ほら、あったよ剣道部っ。隼人さーんっ」
ウサギみたいにぴょんぴょん跳ねながら両手を振っている美羽ちゃんを見つけて、隼人さんが吹き出すように笑っている。
「おう。よく来たな」
「他の部活は全部素通りして真っ直ぐ隼人さんのとこに来たよ」
相変わらずキラキラと目を輝かせている美羽ちゃんの頭を、隼人さんがくしゃりと撫ぜる。
「学校では土方先生って呼べって言っただろ」
「あ、そうだった。土方先生♡ 」
美羽ちゃんの周りにはハートがたくさん飛んでいる。見慣れた光景だけど、やっぱりキュンキュンしてしまうのは、私に恋の免疫がないからかな。
あー美羽ちゃん可愛い。恋だね。恋だね。
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