prologue

1/3
前へ
/92ページ
次へ

prologue

4月 すっかり雪も溶け———季節は春 ここ———士英館(しえいかん)高校にも 恋の季節が到来です ————— 「ねぇ、桃。知ってる? この神社の神様って縁結びの神様なんだって」 いつにも増してテンション高めの美羽(みう)ちゃんが、興奮気味に石畳の参道を歩いて行く。 私はその背中を駆け足で追いかけながら、参道を彩るように植えられているハクモクレンを見上げた。 まるで季節外れの雪が積もった様に、真っ白な花が満開に咲き誇っている。 私。花宮(はなみや) (もも)。もうすぐ高校1年生。身長は153㎝で小学生レベル。 前を歩く親友の七瀬 《ななせ》美羽(みう)ちゃんは身長160㎝オーバーのモデル体型で、更に歩くのが早い。 そんな訳で、置いていかれないように必死です。 今日は、身長がもっと伸びますようにってお願いしてみようかな……。なんて。 「ということで、今日は恋みくじを引いて、更には絵馬も書いちゃいます。って、あれ? 桃、なんか疲れてない? 」 くるりと振り返った美羽ちゃんに、慌てて首を横に振る。 「大丈夫。疲れてないよ」そう言って笑ってみたけど、どうやら美羽ちゃんにはお見通しだったみたい。 「ごめん。興奮しすぎて早歩きになっちゃったね」 「ううん。私、足が短いから歩くの遅いよね。ごめん。 あーぁ、私も美羽ちゃんみたいにスタイル良くなりたいな」 「そんなのダメっ。ちっちゃくて可愛いのが桃なんだから、ずーっとそのままでいて。 間違っても背が伸びますように。なんて、神様にお願いしちゃダメだからね」 さ、行こ。そう言って私の手を掴んだ美羽ちゃんが、ゆっくりと拝殿の前に進み出ると、手を合わせて目を瞑る。 美羽ちゃんが願う事はただ一つ。 「隼人さんが担任になりますようにっ」 ただそれだけ。
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加