こんな女がいた

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こんな女がいた

生れながらにして、不幸を背負い、人を憎んで生きてきた。 上手くいかない事はすべて他人にせいにした。 そうすることで、自分を保っていた。 嫌われているのは分かっている。 櫻井彩乃は、そうしなければ生きていく事ができなかった。 もう疲れ果て、死のうと、ある山奥に入り、当てもなく歩いていた。 どれくらい歩いただろうか、雨でぬかるんだ道で、足を滑らせ川岸まで滑落してしまった。 身体中の痛みで、動くことができない。 このまま、死ねるのかな…。楽になりたい。 ゆっくりと目を閉じ、雨に打たれるままその時を待った。 しかし。 あの女だけは許せない。 身体の痛みが増すとともに、ふつふつと、怒りが沸き起こってきた。 意識があるなんて…罪だよ。 やっぱり、そう簡単には死ねないよな…。死ぬことも出来ないなんて…。 「櫻井さーん!」 遠くから、自分を呼ぶ声が近づいてくる。 こんなところに知り合いなんているはずがないのに…。 誰か、降りてくる。 来なくていいのに…。 「大丈夫か?真っ赤なヤッケで、分かったよ。」 「あんた、誰?どっかで、見たことあんだけど。」 「野崎だ。5年前、櫻井さんのバイトしてた飲み屋の常連だった。」 「ああ、あの時の男。なんで、ここに居るのよ。私に貸したお金催促にきたのか。」 「あの時、そんなもん、要らないって言ったはずだ。」 「じゃあ、何故。助けに来なくて良かったのに。」 「あの時と同じ眼だな。」 「ふんっ」 「あんたの跡をつけてきたんだよ。目を離した隙に見失ってしまって。降りて麓で待っていたが、雨もひどくなって来たし、一人降りてこないと事務所から聞いて、あんただと思って、捜しに来たんだよ。それで、赤いあんたを発見した。」 「はあ?ストーカーか?」 「そういわれても仕方ないな。動けるか。」 「無理。で、なんで、私をつけてきたのよ。」 「詳しい事は、あとで話す。」  野崎は麓の事務所に連絡をし、櫻井彩乃は、地元の病院に搬送され、足の骨折で、そのまま入院となった。  退院後、1度来たことのあった、祠にあるお願いをしようと訪れたが、祠は、跡形もなく、消えていた。消えたというより、まるで、最初から無かったように、景色が全く違っていたのだった。
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