彩乃と嵐

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彩乃と嵐

 嵐に、蛇夢の達也ママから連絡がきた。   「うちで、会う?金曜日来るって言ってるけど。お昼ごろだけど、仕事大丈夫?」   「いつでもいいです。仕事午後から休みます。」      ― 金曜日   「嵐ちゃん、遅かったじゃない。」   「ごめん、会社から慌てて道路に出たら、たまたま、危ない感じの人とぶつかってしまったら、ちょっと絡まれちゃって。」   「やっぱり、まだ、不幸続きなのね。可哀想に。もう彩乃、来てるわよ。」     「あんたが、嵐って言うんだ。」    彩乃は、足を組み、灰皿に溜まった吸い殻の上に、また吸い殻を押し付けながら、声をかけてきた。   「あ、はい、斎藤嵐と言います。」   「私は、櫻井彩乃。で、あんたも、あの祠に行ったんだって?」   「そうなんです。一度だけ、行ったんです。でも、お願い事したら、とんでもないことになって。すごい効き目なんです。でももう、大変なんで、何とかしてほしいと思って、また行ってみたんです。そしたら、どこにもなくて。」   「立ってないで、そこ座ってよ。」  彩乃は、ピンと立っっている嵐を顎で促した。 「あんたも、そうか、自分も一度行ったはずの場所に、祠が無かったんだ。場所は間違ってないはずなんだけど。でも、道すら無かった。」   「あのう。」 「何?」 「あの…もう一度、行ってみたいと思うんだけど。2人で。どうですか?どうしても、また確認してみたいんです。2人の方が、場所が間違ってないということもハッキリすると思うんです。」    嵐は、そう言ったあと、背筋を伸ばし、出された水を一気飲みし、息を止めた。   「良いよ。」   「あ~良かった〜。」   「あら、彩乃ちゃん、随分珍しいわね。人と普通に話してる。」   「えっ、人とって。」    嵐は、達也ママの顔を、こわばった顔で見た。   「この子、動物としか話さないのよ。私も、動物みたいなもんでだしね。」   「えっ、動物と話せるの?」   「やだね、この子は。冗談よ。でも、私以外の人とは、ほとんど話さないね。仕事では違うんだろうけど。」   「仕事って。」   「ママ、余計な事言わないで。」   「いいでしょ。私たちの仕事は胸張って言わなきゃ。隠すから余計偏見で見られるんだよ。」   「水商売よ。」   「あ、そうなんだ。」   「ほら、偏見の塊みたいな顔してる。」   「いえ、そんな…。」   「別にいいけど。慣れてるし。で、いつにする?」   「そうですね。今度の土日なら。」   「じゃあ、日曜日ね。」   二人の様子を見て、達也ママがクスクスと笑っていた。   「ママ、なに笑ってんのよ。」   「いやね。彩乃が、男とどこかに行くなんて、天地がひっくり返るわね。」   「ったく、やってらんないわ。仕事行くわ。じゃ、そういう事でよろしく。」   「嵐ちゃん、大丈夫?顔色悪いわよ。」   「あの、何とも言えない空気感ですね。すごい緊張しました。」   「そうでしょうね。まあ、あの子はね、詳しく話してくれないけど、だいぶ苦労したんだろうね。最初はね、ここに働きたいって来たんだよ。ここがどういうところか、分からないで来たんだね。もちろん、断って知ってるとこ紹介したのよ。でも、なんかほっとけなくてね。時々、こうやって客でもスタッフでもないけどね。なんとなく、ここでおしゃべりしてくのよ。ほんと、喋んない子だったんだけどね、少しずつ心開いてくれたわ。そのうち慣れるわよ。変わった子だけど、良い子よ。仲良くしてあげて。」   「仲良くできるかどうかは、お約束できませんが、これも経験だと思って。」   「あはは、嵐ちゃんも、変わってるかもね。まあ、頑張って。あとね、あなたに憑いている、艶めかしい女性だけど、悪意はあるけど、そんなに殺気を感じないわね。」   「でも悪意って…。怖いよやっぱり。」   「まあ、気を付けて。」
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