祠があった場所

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祠があった場所

彩乃と嵐は、電車の中にいた。  彩乃は、窓の桟に肘をつき車窓を、無言で眺めていた。    向かい合って座っている彩乃との張り詰めた空気感に、耐えかねた嵐は恐るおそる声をかけた。   「櫻井さん、どうしたの?」   「何が。」   「なんかあったんですか?」   「どうして。」   「いや、あの、この前の時より、疲れた顔してるから。」   「余計なお世話よ。」   「すみません。」    目も合わせてくれない。この人と、キャッチボールをするには、どうしたらいいんだ。    それでも、嵐は、時折ウトウトとしている彩乃に、優しい眼差しを向けていた。    寝不足なのかな。寝顔は意外とかわいい。これで、性格が良ければな…。    嵐はそんな事を思いながら、この心地よい緊張感中で、過ごしていた。    1時間ほどで、二人は目的地の神社に着いた。    今日は日曜日とあってか、参道は多くの観光客で賑わっていた。   「どこか、横に逸れていく細い道があったはずよね。」    二人は土産屋を見ながら、どこをどう回ったか思い出していた。   「この辺かな。」   「あんたはどう思う。」   「うん、ここら辺だと思う。土産屋の並びが、ちょうど切れたあたりの、このトイレに入って、出て、そうだ、その脇から細い道があったんだ。確か、そこに入って行ったよ。」   「そうよね、やっぱり、道はあった。絶対、この辺なんなんだけど…2人とも認識は同じってことね。」    彩乃が急に動き出し、道のない草むらを入って行った。   「櫻井さん、いきなりどうしたの。いやだな~もう、虫とか、蛇とか出てきそうだよ。」    嵐は、進もうとしない自分の足に言い聞かせるように、彩乃について行った。   「ねえ、ほら、ここ見て、石がある。礎石っぽい。」    彩乃が指さしたのは、四角い平らな石が、草に隠れるように、敷いてあった。   「やっぱり、なんか建ってた。」   「でも、彩乃ちゃん、この石だいぶ欠けてるし、3か所って中途半端だし、祠を見たの最近じゃん。こんな何十年も前みたいな跡、どう考えても違うよ。」   「その呼び方、気持ち悪いから、やめて。」   「だって櫻井さんって呼ぶのも、なんか…。」   「彩乃でいい。」   「そんな、呼び捨てなんて、出来ないよ。」   「じゃ、喋ってあげない。」   「う、わかった。あやの。」   「なんか、ムズムズするけど、まあいいや。私は嵐って呼ぶよ。」   「あ、はい、お願いします。」   「嵐もこの場所で、間違いなかったと思っているでしょ。」 「そう、確かにこの場所だった。でもどこにも祠なんて無いし、そもそも道がない。」    しばらく、考えてた彩乃が、とんでもないことを言い出した。   「こんなこと言ったら信じられないかもしれないけど、違う世界が、たまたま現れた。ほら、よく昔から神隠しなんていうじゃない。そのタイミングで現れた祠に、私たちは参拝した。そして祠は消えた。」   「まさか~」   「人が真剣に言ってるのよ。」   「え、でも、そんな事があるわけない。」   「だったら、この現象どう説明するの?」   「説明はできないけど…。」   「ね、あの時、どういう状態だった?私の時は雨降ってた。」   「自分の時も、雨だった。とういか、祠のところだけだったけど。」   「時間は?」   「午後、3時か4時かくらいだったと思う。」   「私も、そんな時間だった。」   「じゃ、今度、雨の日の午後、来てみよう。」   「いつ降るか分からないよ。」   「天気予報見ればいいでしょ。」   「そんな土日に、都合よく降るかな?」   「平日でも来るのよ。仕事休んでよ。」   「え~。」   「知りたいんでしょ。それに、元にもどして欲しいんでしょ。」   「そうだけど…。分かったよ。」    彩乃は思った。    なんか、遠い昔に感じた匂いがある。ここには…。
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