悲しみの涙は炎に焚べる(一)

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 なにが悪いのか?  なにが母を殺したのか?  病気か?  病気を治してくれなかった医者か?  医者は暖かくして養生すれば治る病だと言っていた。  ならば、薪を売ってくれなかった薪割屋か?  薪を買えなかった私か?  私は母のために生きた。私は母のために生きている。  そもそも暖かければ。春さえやってくれば、母は死ななかった。  寒さのせいだ。  冬。  冬のせいだ。  冬の王のせいだ。 「死んだ母親を燃やせるだけの薪は残しておけよ。今は土に埋めても骨になんねーからな。病の原因になっちまう」  その言葉を思い出して、私は家に火を放つ。  ここは私の帰る場所ではない。母の棺だ。  熱が頬を打つ。白雪に炎の赤が落ちる。  庭の枯れた桜が、乾いた空に枝を刺している。  さぁ、行こう。  冬を殺しに。  流れた涙は炎に焚べよう。未だ盛る赤の中で、私は歩みを北に向けた。
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