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「簪を贈る意味は『護る』と『一生を添い遂げて欲しい』なんですよ。てっきり知っているのかと思っていました」
定員は少し意地悪っぽく笑っていた。まさか簪を贈る意味があったなんて。でも、この簪を見ると彩が頭の中で自然と浮かび上がる。
「あの、この簪っていくら位ですか?」
俺はこの簪を買うことにした。これは彩のお土産として。でも、本当はお土産として贈りたいんじゃない。俺の気持ちを知ってほしいからこの簪を贈るんだ。
「こちらの簪は値段はありません。元々は父が最後に作った簪なのでどうしてもこれを売ることが出来なかったんです」
そっか、元々はこの人のお父さんが最後に作った簪。それを易々売れる訳が無い。
「ですから、こちらはタダでお渡しします」
「……えっ?」
今……なんて?
「いや、そんな訳には」
「私の父はこれを最後に作ってとても満足したかのように息を引き取りました。私はこの簪を付けてくれる人に、そして、贈る人にも幸せになってほしいのです。だからこの簪に私は価値を付ける事は出来ません」
定員さんのその表情は優しさと嬉しさがあり、定員さんのその言葉に俺は素直に嬉しかった。
でも、やっぱりタダで貰うのもやっぱり悪い気がした。
「わかりました。でも、やっぱりお金は払わせて下さい。タダで貰うのはやっぱり悪いですから」
女性定員はその言葉を聞いて少し困りながら考えると。
「では、このお店の中の簪を一つお選び下さい。それを一緒にこの簪も付けます」
そう言われて俺は店の中を見て回りこれといった簪を探した。そこで俺が一番気になったのは彼岸花の簪だった。その彼岸花の簪は濃い赤色にとても立体的で良くできているなと思うぐらいとても細かだ。俺がその彼岸花の簪を手に取ると女性定員は「それは私が作ったのですよ」と少し自慢気にいった。
「私達の簪はほとんど硝子で作られるんです。今、簪を作っているのは私と妹、弟と母なんです。そしてその彼岸花の簪は私が作った中で一番自信があるものなんですよ」
と笑いながら俺にそう説明してくれた。確かに細かな所から形まで本物の彼岸花みたいだ。そして俺はこの簪にすると決めた。この簪は母さんに贈ろう。
勿論日頃のお礼として。
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