海の思い出

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「違うの! 別に赤が嫌いとか殺すとかそんなんじゃないの」 「じゃあ、あれはどういう意味で?」 俺が彩に聞いたら彩は顔を真っ赤にして下を向き、ついには手で顔を隠すから見えなくなってしまった。 「悪い赤。彩を少し借りる」 幸が彩の手を掴み何処かに行ってしまった。俺は一人で泳いでも意味ないと思い、彩のお父さんの所に戻りスケッチブックと鉛筆をカバンから出して海を見ながら絵を描き始めた。 「あれ? 彩と幸君は?」 「二人は何処かに行きました」 彩のお父さんが「どうして?」と聞かれたので、こうなる前の話を説明すると彩のお父さんはお腹を抑えて笑い「彩は本当に僕似だな」と言っていた。 「気にしないでくれ、赤君。彩もああ見えて不器用なんだよ」 「は、はぁ」 よく分からなかった。確かに彩は料理とかあまり上手くないが下手でもない。俺は考えるのをやめて絵を描く事に集中した。 しばらくしていると彩と幸が戻ってきた。二人とも何事もなかったようにしていてむしろ彩は「お腹がすいたから早く幸が作ったお弁当食べよ」と言っていた。そういえばそろそろお昼だな。 「あまり多くはないが彩の好きそうなのは入れてやったぞ」 「本当!」 「幸君のお弁当は初めて食べるな」 二人は幸の作った弁当を楽しみにしていたのか、こんなことを言っては失礼だがまるで幼稚園児みたいに見えた。俺も一旦絵を描くのをやめてカバンにスケッチブックと鉛筆を仕舞おうとしたら、彩と彩のお父さんが震えていた。 「彩、どうし……」 聞く前に幸が作った弁当に目が行った。その弁当は重箱で一段だけがピーマン料理で埋め尽くされていた。 彩と彩のお父さんは顔を真っ青に、幸は何故か笑っていてその笑みが黒く見えた。俺はピーマンは別に嫌いではないからなんともないが、ピーマンが嫌いな二人にとっては壮絶な戦いになりそうだ。残りの二段は真ん中が普通のおかず、上がおにぎりでとてもシンプルだった。 「二段のお弁当は美味しそうなのに一番下のピーマンは美味しくなさそうに見える」 「これは何とも言えないね」 二人はピーマン入りのお弁当とにらめっこをしていて、本当によく似ているなと思う。 「幸が作るものは何でも美味しいから、もしかしたらピーマン嫌いが克服出来るかもしれないよ」 二人はう~んと唸った。そんなにピーマンが嫌いなのか。俺は割り箸を二つに割ピーマンの肉詰めを一口食べる。 「うん! すごく上手い。幸は良い嫁になれるな」 「冗談はやめろ。それと俺は男だぞ、嫁なれるわけがないだろ。彩もダメもとで一つ食べてみろ」 幸は重箱の蓋を皿がわりにしてピーマンの肉詰めを一つ彩に渡した。彩も渋々受け取り、割り箸を割ってピーマンを口に運ぶ。 「……………」 目を閉じ、口を動かしたまま何も喋らない。ついに彩は口に入れたものを呑み込んだ。 「すっごく美味しい! お父さんも食べてみて!」 「本当か! じゃあ頂こう」 彩のお父さんもピーマン料理の入った弁当に箸を伸ばして口に入れた。 「確かに上手い! 幸君は天才だ」 二人に褒められて幸は顔に出やすいのか、口には出さないが顔が少し赤くなっているのがよくわかる。 「確かにピーマン料理も上手いがこっちの唐揚げも上手いぞ。肉巻きのアスパラガスも」 「ありがとう!赤、幸も食べなよ」 「言われなくても食べる。彩も沢山食え、まだまだあるぞ」 こうやって誰かと食べるのはやっぱり上手い。幸が作ったのもあるがやっぱり誰かと一緒に食べる方が一番上手い。それで俺はふと思い出し紙の皿を一旦置いてカバンからカメラを取り出し、彩の写真を一枚撮った。 「赤、さっき写真撮った!? ちゃんと撮ってよ、ご飯を食べた私の丸い顔じゃなくて」 「でも可愛いよ。ほら」 俺は彩の顔を撮ったカメラの画面を彩に見せると恥ずかしそうに手を顔に覆った。よっぽど恥ずかしかったみたいだ。 「今すぐ消して!」 「本当に可愛いよ。ほら、幸。お前も可愛いと思うだろ」 「あぁ、まるでリスみたいな顔だな」 カメラの画面を幸に見せると幸は少し笑い彩のお父さんも「可愛いリスみたいだ」と言った。そんな彩はまるで話を逸らし始めるかのように咳払いをし話題を持ち込んだ。 「そういえば、遊園地どうしようか?」 そういえば遊園地の予定は全然決めてなかった。でも、俺は正直いつでも良い。 「俺はいつでも良いが、幸は?」 「俺もいつでも構わない」 「"いつでもいい"が一番困る! 」 彩は困りながらそう叫ぶ。すると彩のお父さんがその話に食らいつき彩のお父さんが提案した。 「じゃあ、今日海に行った日の一週間後なんてどう? 赤君は絵の事もあるし、早い方が良いと思うよ」 「そうだね、じゃあ一週間後にしよ」 俺達三人は彩のお父さんの提案に賛成し、一週間後に遊園地に行くことが決まった。その後は三人でビーチバレーをしたりかき氷を食べたり彩が貝殻を拾ったり俺は休憩の合間に絵を描いたりして遊び尽くした。そしてそろそろ日がくれる頃俺達は彩のお父さんの車に乗り遊び疲れたのか深い眠りについた。 「赤! 赤、起きて。赤の家に着いたよ」 「赤君、着いたよ」 「あ、ありがとうございます。すみません家まで送ってくれて」 「これくらいどうってこと無いよ。おやすみ」 「赤、おやすみ」 「あぁ、おやすみ」
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