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男は独り佇んでいた。壁際に置かれた椅子に、ぽっんと腰かける。右手に力なく握るグラスの中身は空っぽだ。まるで彼の心を示すように__
小山内康介は、町内に住む二十九歳の青年だ。
この日この時間、この場所ではとあるイベントが開催されていた。孤独な男女が出逢いを求めて集うイベント、つまり婚活。それを町側がプロデュースする。いわゆる街コンだ。
康介がここに至った理由、それは単純。母親が『これ凄いね。10回の開催でカップルが200組だって』そんな風に持ってきたチラシからだ。
それには康介も拒絶する権利などなかった。彼は独身だ。彼女もいない。生まれてこの方そう呼べる呼べる存在もなかった。促されるままに参加したのだ。
もちろん参加するからには期待もあった。現状に満足している訳じゃない。彼女は欲しい、結婚もしたい。次々と結婚していく友達を見ては、『結婚なんて時の運さ、そのうち俺にだって運が開けるさ』そうは言っているが、可能性はゼロに等しかった。なによりきちんと身をかためて母親を安心させたかった。
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