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 彼女はよく「死ぬ」という言葉を使う子だった。 「大丈夫、死ぬわけじゃないから」 「これ、死ぬほど美味しい!」 「ヤバイよ。暑くて死ぬって」  ある日僕は親戚から果物をもらったから、桃が好きだという彼女に持っていった。すると小躍りして喜ぶので、その場で剥いてあげたんだ。その時の言葉が、今でも僕の頭にこびりついて離れない。 「これ、死にたくなるくらい美味しいね」  その日の夜、彼女は自ら命を絶った。僕の持っていった桃が引き金になったのだとしたら、すごく悔やまれる。僕はいなくなってしまった彼女のことを想いながら、一口桃をかじった。                  完
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